少年と自転車のレビュー・感想・評価
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まさにカンヌ系の映画だろう
ただ淡々と流れていく映画。
さすがカンヌ国際映画祭グランプリに輝いた映画だけはある。
まさにカンヌ系の映画だろう。
父親から捨てられ褒められる事で自分を必要としてくれる人が
自分の存在価値を見出してくれていると思い
シリルは悪い事にも手を染めてしまう。
ただそんな純粋無垢なシリル全てを受け入れられる事のできる
聖母マリアのようなサマンサ。彼女は本当に凄い。
探していた父をやっと見つけた時のシリルの行動には
ほろりとくるものがありますね。
彼も本当は解っていたのだろう。父が自分を手放したことを。
ただそこにあった偶然
少年がサマンサに出会ったのも、サマンサが少年を引き取る程の情が芽生えたのも理由はないんですね。
子供が、大人の女性が昔から持ち合わせていた「頼る、甘える心」と「母性」がたまたまタイミング良く合わさっただけなんだと思います。だから、サマンサはなぜ少年を引き取ることにしたのか、自分でもわからないんだと思います。
私も若いときにこの映画を観ていたら、何も感じなかったのかもしれません。今観たから感じることができた感動も偶然ですね。
ダルデンヌ兄弟は決して劇的に描かないけど、淡々とそこにあった善意を描いてくれて感動します。
親となることのプロセス
ほとんどBGMらしいものがない中で、ベートーヴェンのピアノコンチェルトがとても胸にしみるタイミングで流れる。孤独、哀しみ、愛情といった感情が込められた音楽が非常に効果的だ。
まず、父親の所在を確かめようと必死になっている少年の姿に胸を締め付けられる。自分の全存在をかけて親を探す姿に観客は何かとんでもないことが起きていることを知らされ、その真相と原因を少年と共に突き止めていくことになる。しかし、一方で少年は自転車も失っているらしく、このことと親を失ったことはどうやら関係がありそうだということが見えてくる。そして、家族を失った少年にとって唯一の財産と言えるものはこの自転車だけなのだ。
父親に育児を放棄された少年と、週末だけ彼の里親をかってでた若い女性。親になることを放棄した父親に対して、母親としての愛情と責任感を自らの内面に育んでいくこの里親は、恋人との関係すら犠牲にして少年を守ること選ぶ。人はなぜ親となるのか。どういうふうにして親となっていくのか。このことを、短い期間に起きるいくつかのエピソードで描き出す。子の親とは先天的なものなのではなく、自らの意志と努力によってそうなっていくものである。
最後に、里親の女性と少年が自転車で並んで走り、途中で自転車を交換する。この二人がお互いにかけがえのない存在、対等な存在であると認め合っていることが分かるシーンだ。二人の間に強い愛情と信頼が芽生えたことの証としてこの作品は幕を閉じる。静かだが、なんと説得力がみなぎったハッピーエンドだろうか。
劇場で観なかったことが悔やまれる。
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