「弱っているときこそ周囲からの見られ方が分かる」明日の記憶 根岸 圭一さんの映画レビュー(感想・評価)
弱っているときこそ周囲からの見られ方が分かる
冒頭、アルツハイマー病が進行した佐伯と、その妻の枝実子が、美しい夕焼けの中で思い出の写真を眺めるシーンから、既に名作の雰囲気が漂っていた。辛いだけではない、温かく切ない話なのが、このワンシーンから予見させる。そして期待通り、最後まで惹きつける展開が続く。
まだ働き盛りで、しかも大プロジェクトのリーダーを務める人間が、自分がアルツハイマーと分かったときの衝撃は想像を絶するものだっただろう。アルツハイマーが進行していく恐怖、そしてそれを決して認めなくない気持ち、患者の尊厳などを、佐伯の視点から描けていたのが秀逸だった。
佐伯本人が周囲から愛されている人間だということも、今作が魅力的な理由の一つだろう。結婚式の祝辞を任されたり、退職時に部下から花束と自分達の写真(名前入りなのが良い)を渡されたり、妻が献身的にサポートしてくれたりするのは、全て彼が周囲から愛されているがゆえの出来事だ。周囲の思いやりが泣けるシーンだった。弱っているときや権力を持っていないときにこそ、周囲がその人を本当はどう見ているかが分かるのだ。
今作はキャストも豪華なのが見どころだ。渡辺謙とその妻役の樋口可南子はもちろんのこと、要所要所で香川照之や遠藤憲一などがその存在感を放っていた。
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