「暗い過去から未来を学ぶ映画」聯合艦隊司令長官 山本五十六 太平洋戦争70年目の真実 浮遊きびなごさんの映画レビュー(感想・評価)
暗い過去から未来を学ぶ映画
僕は戦争映画を沢山観る方では無いけど、山本五十六の名前は知っていた。
歴史の授業にも登場するし、日米合作の超大作『トラ・トラ・トラ!』や
迷作『パールハーバー』などにも登場。
アメリカにとっては敵国の司令官でありながら、
優れた軍人または人格者として描かれてきた人物だ。
彼が実際どんな人間だったのか興味があったのと、
成島出監督の新作だからという理由で鑑賞。
派手さは無いが真摯なドラマである事は
他のレビュアーさん達に既に語られているので省略。
まずは太平洋戦争の知識に疎い僕のような若い世代でも
どういった情勢や思惑があって戦争が進行していったのかが
非常に分かり易い作りになっている所が有難い。
戦闘シーンも良い塩梅。
真珠湾攻撃ではカメラも爆音も遠くて正直拍子抜けな印象を受けるが、
日本の敗色が一気に強まるミッドウェー海戦では一転、
爆音も兵士の苦痛の表情も、ぐっと観客に近付く。
これが、実際に戦争を動かす立場にあった人間にとっての“距離感”なのだろう。
そもそも活劇的興奮を追求する映画ではないのだから
これくらい淡々とした描写が適切かと思う。
(本作を『戦争スペクタクル』と銘打った広告もあったが、
担当者さんは映画をちゃんと観たんすかね?)
最も興味深かったのは当時のマスコミに関する描写だ。
あれは最早“報道”ではなく“煽動”。
マスコミに嘘を吐かれたら僕らは何を信用すればいいのか?
実際、今日のマスコミだって一体どこまで信用できる代物なのか?
「目と、耳と、心を開いて世界を見よ」という言葉は
何も玉木宏演じる若き記者だけに向けた言葉ではない。
政治家やマスコミを頭ごなしに批判するのは楽だが、
この映画はそれに煽動された側にも責任がある事を匂わせる。
あの戦争を繰り返さない為に、受け取る側もしっかり情報を見極めなくては。
映画の人々のように、眼前の利益に目が眩んで
自身に都合良く情報を解釈することは避けたい。
「何事も、大元まで辿ってみないとね」
しかし、
『すべて山本五十六の思惑通りなら、戦争回避あるいは講話に持ち込めたはず』
という印象を受ける描写の数々は、いささか山本五十六という人間を
パーフェクトマンとして描き過ぎではとも思った。
まあその辺りの真偽は研究家でも無い僕が言えた事じゃないが。
以上!
過去は変えられないが、学ぶことは出来る。
良い映画でした。
<2011/12/25鑑賞>