ミラル : 映画評論・批評
2011年7月19日更新
2011年8月6日よりユーロスペースほかにてロードショー
歴史の奔流に押し流されつつも強く生きた4人のアラブ系女性たち
1948年のイスラエル建国を機にエルサレムを中心とするイスラエル/パレスチナの地に堰(せき)を切るかのように押し寄せた歴史の荒波を、世代やバックグラウンドの異なる4人のアラブ系女性たちの生涯を通してつづる。ユダヤ人国家の建国は、それまで他の民族と同地で共存していたアラブ系住民にとって受難の開始を意味する。
ヒロインとして最初に登場し、物語全体を覆う家屋の柱や屋根の役割を果たす裕福な家の女性ヒンドゥは、独立戦争の際にユダヤ民兵組織に親を殺害されたアラブ系の孤児たちを救い教育を与えるべく私財を注いで学校を設立、彼女の庇護の下に活発な女性に育ったミラルは、87年に勃発したアラブ系住民によるイスラエルへの抵抗運動、“インティファーダ”に身を投じる……。
ユダヤ系アメリカ人であるジュリアン・シュナーベル監督にとって、個人史的な感情を投影せざるをえない難しい題材であったに違いない。エリック・ゴーティエによる見事な撮影もあって、臨場感を大切にした彼の美学的スタイルが、極めて特殊でシリアスな題材を普遍的な“面白さ”の次元へと巧妙かつ力強く昇華させた。
自分たちと無縁の場での政治判断に基づく歴史の奔流に押し流されつつ、交錯や分離、継承を繰り返す、それぞれに強い意志を持つ4人の女性たち……。その生涯の軌跡をリレー形式で追うことにより、映画それ自体が感動的な一本の川の流れと化すかのように演出されており、僕ら観客もその流れに冒頭から一気に飲み込まれてしまう。
(北小路隆志)