「法と人の正義に切り込む問題作の迫力を是非!」声をかくす人 Ryuu topiann(リュウとぴあん)さんの映画レビュー(感想・評価)
法と人の正義に切り込む問題作の迫力を是非!
この映画、舞台は1865年4月15日、「今日出来る事は、明日にのばすな」のどの名言を残した事などで、日本でも一応その名は良く知られている第16代目のアメリカ大統領エイブラハム・リンカーンの暗殺された事件に纏わる物語だ。
その暗殺容疑者と見られる中にメアリー・サラットと言う一人の女性がいて、彼女も真犯人の一人であるか否かと言う裁判が行われたが、その裁判では、終始一貫として、彼女は無実を主張し続けていた。
しかし、当時の彼女は軍法会議と言う異例の裁判によって、彼女の主張を退け、犯人の一人であるとの判断を下し、アメリカで初めて絞首刑を言い渡され、死刑に処せられた女性だが、約150年の時を経た今でも、その総ては藪の中で在る。
その模様をロバート・レッドフォードならではの解釈により、彼のタッチで謎に迫る、法廷劇だ。レッドフォードは登場人物の一人一人の心情を繊細かつ丁寧に積み上げる様に描き出してゆく事で、法による正義とは何か、アメリカの建国の精神である、「自由と平等、その幸福を追求する事は、天から与えられた人の権利」と言うその精神が、その当時も真っ当に守られていたか否かを再現する事で、現在のアメリカが本当の意味に於いて、アメリカ建国当時の、その精神をしっかりと今なお受け継いで来ているのか否かを世に問う迫真の映画だ。
彼の出演作品も「スティング」「明日に向かって撃て」などの娯楽作も有るが、それ以外の作品では「大統領の陰謀」「ブル・べイカー」「候補者ビル・マッケイ」などの社会派の作品に多数出演しているし、彼が監督した作品に於いては、「普通の人々」「リバーラン・スルーイット」「クイズ・ショー」などなど、非常に人間の本質的な資質とは、如何なるものかを問う、哲学的な作品や社会派の作品が多数ある。そう言えば彼が映画界の若者を養成する為に始めた「サンダンスフィルム」での受賞作品の数々も、軽いタッチの娯楽作品と言うよりも、社会派や人間の本質に迫る作品が多い事に改めて気付かされた。
そんな真面目一方の彼だが、いえいえ、生真面目なるが故にと言う方が正しいのだろうか、ロバート・レッドフォードは大学を1年で退学し、ヨーロッパに浮浪の旅に出ると言う珍しい経歴を持っているのだ。
彼は映画界に入る前は画家志望だった為に、彼の作品はみな、非常に画的に美しい映像であるのも彼の作品の大きな特徴と言えると思う。
クリント・イーストウッド程には、彼は早撮りでは無い為に、イーストウッドの様に毎年1作品と言う急ピッチで作品を制作する事はないが、レッドフォードもイーストウッドと共にアメリカ映画界には常に大きな影響在る存在なので、今後の作品も益々楽しみだ。
アメリカの法的劇は、日本人には少々難しい気もするが、しかし、たまにはこう言った社会派の作品を観てみるのも考える所が多々有り面白いと思う。
そしてまた今回も、ジェームス・アンドリュー、ロビン・ライト、ケヴィン・クラインといった豪華名優揃いなのもこの映画の楽しみだ。ところで、リンカーンは奴隷解放の父と言われ、今でも最も評価の高い大統領の一人として人気だが、彼はその一方では、先住民族であるネイティブアメリカンを徹底的に迫害した。ナバホ族や、ダコタのインディアン戦争が行われたのは、リンカーン政権下の時であり、彼はかなり凄い民族主義者と言う半面も同時に合わせ持っている事が覗われる。
法の番人である弁護士でもあったリンカーン大統領の暗殺事件究明の裁判が、自由と平等の精神に則った裁判では無かったと言うのは、誠に皮肉な事だ。