サラリーマンNEO 劇場版(笑) : インタビュー
生瀬勝久&小池徹平、絶妙タッグで笑いと悲哀を怪演
日本の企業社会に生きるサラリーマンを題材にした深夜のコント番組が映画化され、11月3日に満を持して公開される。せつなさや滑稽な部分を中心にコミカルに描くが、サラリーマンという職業がとても誇らしく思える作品。小池徹平という“相棒”を得た俳優・生瀬勝久が、沢村一樹、入江雅人、山西惇、八十田勇一、堀内敬子、平泉成ら個性的なレギュラー陣と共演した「サラリーマンNEO 劇場版(笑)」について、主演の2人に話を聞いた。(取材・文/奥浜有冴、写真/本城典子)
テレビシリーズは、サラリーマン社会の日常を切り取り、見る者が思わず“あるある”と共感してしまう、会社の不条理やジレンマに焦点を当てた。2004年に単発番組として放送されて反響を呼び、06年からレギュラー放送が開始。NHKには珍しい直球のコント番組。映画版ではどう進化したのだろう。
「出来上がったチームへ入るプレッシャーはありました」。そう打ち明けるのは、映画で新キャストに加わった小池。「ホームレス中学生」(08)、「ブラック会社に勤めてるんだが、もう俺は限界かもしれない」(09)などの主演も務め、05年放送のドラマ「ごくせん」では、“教頭と生徒”という関係で生瀬と共演している。今作はごく普通の新入社員役で、生瀬とのダブル主演に抜擢された。
「普通の役に徹するのは、あのメンバーの中では難しい。最も共演シーンが多い生瀬さんが、クセの強い中西課長を演じられていますが、つられちゃいけない」と語る。今作の見どころのひとつが、2人のやりとり。基本的にアドリブは少ないというが、新参者としてのプレッシャーをはねのけるべく、入念に研究して現場入りをしたという。
約7年にわたり続いてきた「サラリーマンNEO」。映画化について、生瀬は不安が大きかったと吐露。「テレビ版を知らない方にはキャラクターが伝わりにくいと思った。当初は構成も予測できず、試写を見た後におもしろいと実感しました」。
冒頭で触れたキャストをはじめ、出演者のほとんどがテレビと同じ顔ぶれ。収録現場でコミュニケーションを取る時間が増えたと生瀬は喜ぶ。「テレビの時は日に6、7本コントを撮るので、なかなか合間に話せなかったが、今回はゆっくり話せた」。
取材中、生瀬の話す言葉に小池はよくうなずく。この2人の間の温かい空気感が、劇中では存分に生きている。コメディ映画だが、見終えた後にエネルギーをもらえる映画だ。
印象的なのが、居酒屋で2人が腹を割って話すシーン。サラリーマンの生きざまが凝縮された深い場面。ふだんほとんど演出の指示を出さないという吉田照幸監督が、珍しくこだわったそうで、「“このシーンがうまくいかないと、映画が成立しないと思うんですよ”と監督に言われました。セリフがない部分も多く、表情でうまく伝えるために役の気持ちを丁寧に演じました。本当に好きなシーンです」と、小池は手応え十分の様子で語った。
コント番組を撮り続け、映画でも笑いを追求する吉田監督は、一体どんな人物なのだろう。つきあいの長い生瀬は「プロだと思う」とキッパリ。現場で役者に対して細かく指示をしない代わりに、テレビのオンエアや編集に対しては相当シビアとのこと。「まれに、時間をかけて撮影したコントがオンエアされないことがあります。“何だよ! 撮ったのに!!”ってなる(笑)」。きっとそういう冷静な目を持つ監督だからこそ、何年にもわたり鮮度のいい作品を作り続けられるのだろう。
今作には多くのキャラクターが登場するが、そのどれもが身近にいるような“わかる!”と共感できる面を持つ。沢村演じる営業一課の川上は、まじめだがいつもどこか的外れ。勤務先である「NEOビール」の新たな目玉商品の企画提出を命じられた際も、「無重力ビール」なる謎の案を出したり、セクシーというテーマで商品開発を進めた結果、瓶のサンプルを女体の形に作り上げ、女性社員にドン引きされる。それでも、一生懸命で“いい人”という人柄が伝わるので、許せてしまう。生瀬も、「よく言われるんですよ。ああいう上司だったら憎めないって」と笑う。
最後に、それぞれが演じた役を客観的に分析してもらった。もし、中西課長の部下になったとしたら? と生瀬に問うと「僕ね、ああいうサラリーマンに自分がなるのはいいと思うんですよね。でも上司となるときっと困ると思います。だから分析をして、どうやって自分にとって都合のいい人にするか考えますね」。
小池は、「新城みたいな後輩がいたらイライラするでしょうねえ。多分、上から押し付けても全然納得してくれるやつじゃないから、まず徐々に相手を知って理解してあげることから始めます。なるべく同じ目線に下りて、“大変だよな”と声をかけつつフラットに接するかな」。
そして、生瀬がぽろりとこぼした。「でもやっぱり、会社って難しいなと思いますね。自分がサラリーマンだとして、後輩を高みに引き上げてやろうという気が、果たして起きるのか謎ですね。自分が認めなかったら、切り捨てちゃうかもしれない(笑)」。
まさかのバッサリ発言に、サラリーマン社会の厳しさの片鱗を見た気がした。いろいろな意味でリアル、きれいごとなしのこの映画、サラリーマンならずとも人生のヒントが得られるかもしれない。