「アメコミの皮かぶって人間の根源を問いかける」スーパー! 永賀だいす樹さんの映画レビュー(感想・評価)
アメコミの皮かぶって人間の根源を問いかける
主人公のフランクは大柄なうすのろ。ウジウジした性格で、人生によかった瞬間はたったの2回という中年男。美人の奥さんはいるけど、映画開始直後、イケメンの麻薬ディーラーの元に行ってしまう。まったく救いがない。
悲嘆に暮れるあまり幻想を見たフランクは、コスプレして街に繰り出し、「クリムゾンボルト」として重いレンチで悪党を叩きのめすのだった。
導入としては映画『キック・アス』にとっても近い。
ただ、共感のしにくさでいうと『スーパー!』は『キック・アス』をしのぐ。
あっちの主人公デイブは「ヲタク」「ケンカに弱い」「女にモテない」の三拍子だったけど、こっちは「うすのろ」「ネガティブ」「モテない」の三拍子に加え、中年男子というところがかなりキテる。
どの層にも共感しがたい年齢設定とキャラクター付けは、この映画が本気でアメコミをえぐろうとしているのがわかる。
行き場のない感情を信仰と妄想に求め、どういうわけだかコスプレ自警団を気取るわけだけど、そのことごとくがリアルで観客がやったら同じことになるだろうなということのオンパレード。
事件に巻き込まれて困っている人なんてそうそういないし、路上でケンカするとなればコスプレなんて邪魔なだけだし、マスコミからは仮装した暴漢扱いされる。
そもそも路上で何か困ってる人を助けるのに、暴力なんか必要ない。当人は善行を施した気になっていても、実は結構なギャップがあったりというのは観ていて痛々しい。
列への割り込みは確かに悪いこと。でも、血が流れるほど殴る必要があるか? 世界の警察を気取るアメリカ様は、各地で首を突っ込んでは象とアリの戦いを展開しているけど、フランクがやっているのも同様。過剰な制裁はげにグロテスクなりしかな。
アメコミでなくとも、アクション映画観てヒーローにあこがれた人なら、誰でも後ろめたいような気分にさせられるんじゃなかろうか。「実際にやったらそうなっちゃうよね」と。
また誰もが一歩踏み出せないことに、それでも前に進んだ人がいたりすると熱狂的なフォロワーが生まれたりするもの。
それが本作では「ボルティー」ことリビー少女なのだけど、こっちもかなりブッ飛んでる。
フランクが巷をにぎわせるクリムゾンボルトと見破るなり相棒に名乗りを上げ、迷惑気味のフランクをせっついて路上活動に。すると当のクリムゾンボルト以上に制裁を加えるという有様。
どこの世界にいっても共通するのだと思うけど、自分は最前線に立たないでいて、でも実は先頭に立った人より熱狂してる。
だったら自分が前に出ればいいのに、それはしないで「自分は補佐役だから」と安全圏に身をおいてる。そういうのって学校や職場で誰しもが経験してることじゃなかろうか。
もし経験してるなら、このボルティーを見て、「美少女の押しかけ相棒なんて最高ジャン!」などとはいえないだろう。
映像でも流血や肉体損傷があったりするのだけど、そういうビジュアルなグロさはむしろ極力セーブしようという気遣いがあちこちに。
ポスターなんかもクレヨン画風のイラストが挿入されていて、これは邪魔っけにも見える一方、これがないとどこまでも陰惨になっていく映像を救っているのだと思う。
『スーパー!』が強調したかったのは、映像によるグロさではなく、もっと内面にくるグロさ。子どものころに教わった「悪いことしちゃいけません」は、しかし現実世界にいっぱいあふれている。その狂気とどう向き合っていくか。
望んで出て行った(とはいっても麻薬が原因ではあると思うけど)妻を取り戻すのに、結局は暴力という手段しかなくて、でも暴力で反撃されて、血を流した先にたどり着く先に何を見るか。
ちっとも大仰な形ではなく、とっても身に迫った形で問いかけられるフランクとのやり取り。こんなこと言われたら「だから暴力はダメだよね」などと軽々しくいえようか。
映画では一応、フランクの身にも平穏が訪れたようだけど、果たしてどうなのか。
実は劇中、「ページとページの間」という表現があって、コミックが描かない現実を突きつけた。
ならば『スーパー!』のエンディングの向こうには、フランクにとってロクでもない結末が待っているような気がしてならない。
もしエンディングそのままに受け止められる人がいたら、それは本当にお花畑な人だな、と思う。
では評価。
キャスティング:7(ボルティー演じたエレン・ペイジ最高! フランクの狂気に輪をかけてる)
ストーリー:8(アメコミをモチーフに、こんなに居心地悪いシナリオをありがとう)
映像:6(随所にアニメを持ち込んでチープに見せてくれたのが本当にチープに見えたりする。本文にあるとおり効果はわかっちゃいるけれど、というやつです)
狂気:9(コミックのヒーローに扮した中年おやじをリアルに描いたら、本当に醜悪なものが見えました)
暴力:8(物的な破壊というより、そこに込められた思いに圧倒)
というわけで総合評価は50満点中38点。
モヤモヤした気持ちを引きずっても人生の何たるかを考えたい人にはオススメ。
一見するとダサい映画に、自分の身につまされる何かを刺激されてもかまわないという勇気を持った人には超オススメ。