「生き辛さはどの時代も同様か?しかし人として忘れてはならない心を残してくれたこの映画に感謝したい!」一命 Ryuu topiann(リュウとぴあん)さんの映画レビュー(感想・評価)
生き辛さはどの時代も同様か?しかし人として忘れてはならない心を残してくれたこの映画に感謝したい!
この映画は、出だしから、「もう、これは最高!」いける時代劇と感じさせる臭いがした。
カメラアングルから 、音楽の使い方、大名屋敷のセットの色調と、ロケの季節感の美しさなど、見事にこれから始まる、この悲劇の物語の演出は整っていた。
そして市川海老蔵さんは、さすがは歌舞伎役者である!歌舞伎の舞台で見得を切るように、大名屋敷では大見得をご披露してくれた。
何だか映画と言うよりは、お芝居を観劇している気持ちにさえなってしまったのだ!
役所広司も市川海老蔵と決闘をしているように両人の芝居の対決がこの映画に迫力を持たせてくれていた。
そこにいくと瑛太の熱演は認めるが努力賞の域を抜け出せないままにいた感がある。
瑛太ファンには申し訳ないのだが、先の両者の間では、力量不足でアンバランスで不自然に感じた。しかしそれでは誰が若手俳優で瑛太の代役を出来たのか?と問えば思い当たる俳優がイメージ出来ないのも確かである。
「やはり、邦画界が、若い映画俳優をじっくりと育てられない、これが日本の限界なの?」といささか不安になる。
製作費など予算の問題で十二分に若手俳優さんの芝居を鍛え上げ訓練するだけの力が邦画界には無いのだろうか?このままでは、日本の文化は維持できるのか不安を憶える。
天下泰平で徳川幕府は我が国の文化の最も安定した、時代であったと思っていたが、その蔭で、こんな狂言切腹なる悲劇が起きていたとは知らなかった!愕然とした・・・
それにしても、侍の傘貼り内職のシーンはどの時代劇でも頻繁に目にするのだが、実際に傘の紙を貼るだけの内職で生計を立てる事が出来たのだろうか?
極貧生活に喘ぐ侍と農民達が生きた時代が江戸の本当の姿なら、江戸時代の歴史の中で人間らしい、普通の生活を営む事が許されていた人々はどれだけ存在していたのだろうか?
刀剣や、書籍を値切って買い取る質屋の存在こそが心底恨めしく思えた。
江戸時代に、オランダなどから来日した外国人の記述した文献によると下水道も整備されたエコ生活が確立していた、循環型のエネルギー文化を営んでいた江戸文化は、同時代の欧米文化に比較すると非常に優れていたと言うのだが・・・
そして単なる物質面だけでなく、当時の日本人の人間観などの、倫理観、道徳観など一般庶民の識字率なども含めて、かなりの文化水準を誇っていたと言う文化の影に、こんな格差社会が存在していたとは、只只哀れと言う他に言葉が見つからなかった。
武士道に始まり、武道、書道、華道、茶道と様々な文化を築き上げたこの時代、どの道も極めると一つの世界観へと到達する日本人のアイデンティティが確立され、今の日本人にも影響を残す豊かな知と仁の基盤が確立したこの時代に、この様な理不尽な非道なる武士の情けに反する、武家社会の切り捨て御免が存在していた事を想うと哀れで、悲しいのだ。しかし、懐に忍ばせ、家族に持ち帰ろうとした練り切り御菓子。貧しき家族を愛する心の表れだ、平成不況の今日でも私達が忘れずに持ち続けていきたい心がそこに有るのだった。