「血が飛び出すのではなく、紅の奥行きに趣向を凝らした3D演出と色づかい」一命 全竜さんの映画レビュー(感想・評価)
血が飛び出すのではなく、紅の奥行きに趣向を凝らした3D演出と色づかい
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時代劇初の3Dとして話題となったが、三池組としては血塗れバイオレンスが振り切っていた娯楽作『十三人の刺客』の方が断然向いているという印象が強かった。
どう考えても今作を3Dにする必要性は皆無に等しい。
困窮に耐え忍びながらも侍の誇りを忘れようとしない男の胸中に迫る精神的なドラマの構図だからだ。
なぜ狂言切腹に踏み切らざるを得なかったのか?
真相は眼鏡の奥の眼の奥で見据えないと感情移入なぞ不可能である。
よって、クライマックスで面目や恥ばかりを重んずる藩の縦社会に海老蔵の怒りが爆発するまでは、救いの無い暗黒面が広がり、終始、痛々しい。
寺子屋の先生の瑛太とその妻・満島ひかり2人共、華奢な体やから尚更、貧しい暮らしぶりが儚かった…。
侍社会の本音と建前の狭間で苦悩する大名・役所広司の葛藤も眼鏡越しから観る者の心を震わす。
飛び出すのではなく、画の奥行きに趣向を凝らした3D演出やと感じた。
甲冑、紅葉、そして、血肉と、濃い紅の色づかいに今作の世界観が集約化されていたと思う。
故に、絶えず血の臭いを漂わせていた海老蔵の存在感は正に独り舞台と云えよう。
歌舞伎で培った海老蔵の睨みが殺陣に鮮やかな殺気を加え、唯一盛り上げる。
一連の喧嘩沙汰で公開すら危ぶまれた作品だが、いざ見届けると、血生臭さが自然と刀に染み付いて、言葉で表現しきれぬ迫力を帯びていたから、人生はどう転ぶか解らないものだ。
自腹を斬るのは喰い道楽に限らぁ…っとくだらない結論でサゲたところで短歌を一首。
『折れてなを 廻す刀の 散り紅葉 雪見届けし 武士の面目』
by全竜
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