「骨抜きの駄作」一命 しなりさんの映画レビュー(感想・評価)
骨抜きの駄作
駄作である。脚本が悪い。
夫婦愛、阿鼻叫喚切腹シーンに、やたら時間を割くあたり、タレントの露出を優先したのだろうか。結果テンポも悪く、ただ陰鬱なだけ。格調高さもない。
なぜか可愛らしい白猫が登場するが、まさかゴッドファーザーの真似事か。脚本は女らしいが、トレンディードラマでも作りたかったのだろうか。
最大の問題は、封建社会の残酷さや虚飾を暴く話なのに、武家側が大して残酷でも飾ってもないことだ。
特に家老職・斉藤勘解由が優しすぎる。
・千々岩求女の介錯に、短刀を貸し出そうとする
・介錯を遅らせる沢潟彦九郎を叱り、なんと自ら介錯に及ぶ
・あげく、千々岩家に金銭を与える。
目を疑う光景であった。
原作の斉藤が否定した「義理人情の通じる甘い世界の話」の体現者ではないか。
これでは、誰も井伊家を恨めまい。
こうなると、金吾が死んだのは、お金が家に来るまでの単なる時間差の問題である。間抜けな話だ。
求女がさっさと井伊家に行って無心してたら、お金もらえたのに。金吾も死なず、美保も後追い自決をせず済んだ。
求女の「(美保を)命をかけてお守りしたい」という言葉は、口先だけに終わった。タイトルの「一命」とは、何かスナック菓子のような軽めのモノを指すのであろう。
この脚本により津雲半四郎は、人の家に上がり込んで悲しそうに喋るだけのクレーマーに落ちた。
クライマックスで、半四郎が、井伊家の家臣3人の髷を見せる場面も、興ざめだ。この3人、なんと3対1で半四郎に負けて髷を切られている。どれだけ弱いのだ。井伊家というより、垢抜けないチンピラ3人の不始末の問題である。
そもそも、斉藤自身が「うちの家来は戦を知らぬ」といきなりハードルを下げてひよっているからね。
初めから「武士の面目」が描けていない。
原作で、武家の虚飾を暴くのは、半四郎の刀であった。
半四郎は武士として〝迂闊にも〟しがみついてしまった刀でもって、修羅と化してけじめをつけた。武士の誇りである刀は、持つ者の資質を問い、リスクを突きつけるまさに諸刃の剣。刀の持つ本質が浮き上がったのも、原作の魅力であった。
そのような展開、望むべくもない。
海老蔵半四郎が抜いたのは、やっぱり竹光。
「命を大切にね」とでも言わんばかりの、竹光チャンバラごっこ。
ビー・バップ・ハイスクールかよ。まだ城東のボンタン狩りの方が気合いが入っている。とんだおままごとだ。この作品に、刀はもったいないかもね。
誰か脚本家を止める者はいなかったのか。あれだけの方々がおられて。骨太な脚本が、すっかり骨抜きにされ、刀から竹光に落ちた。
「半世紀を経て、日本映画はダメになりましたー」ということを示したかったなら、成功である。
猫は可愛かった。