僕等がいた 前篇 : インタビュー
吉高由里子「僕等がいた」で構築した新たなヒロイン像
「演じること? いまだに好きになれないですね。そこは赤線太字で強調しといてください」。吉高由里子はそう言って、いたずらっぽい笑みを浮かべる。次々と話題作に出演し、いまや若手No.1と目されるが、従来の人気女優などという枠組みなど飛び越えてしまう奔放さこそが彼女の魅力だ。そんな吉高の最新作で前後編2部作として公開される「僕等がいた」は1200万部を超える人気漫画を原作にしたラブストーリー。“規格外”の23歳は王道とも言える純愛映画に何を感じたのか。何が吉高を映画へといざなうのか。前篇の公開を前に話を聞いた。(取材・文/黒豆直樹、写真/本城典子)
吉高が演じたのは、クラスの3分の2の女子のハートを射止めるほどのイケメンモテ男子・矢野(生田斗真)と恋に落ちる七美。10年以上にわたって連載が続いた人気漫画のヒロイン役ということで、演じる上ではかなりプレッシャーもあったようだ。
「出演が決まってから読んでみたんですが、七美の恋愛って私が経験してこなかったタイプの恋愛なんですよ。漫画だからこそすんなり入ってくるセリフをどう言ったらいいのか? というのも不安でしたね。(七美が矢野に言う)『好きだ、バカ』という言葉も『なんで“好き”と“バカ”が共存するんだ!?』って思ったりして(笑)。本番のギリギリまで悩んでいましたよ。ただ、生田さんがプレッシャーを感じさせずにいつもそばにいてくれて、私の構えている感じをスッと溶かしてくれました。クランクインしてから1カ月半くらい釧路で泊まり込みでコミュニケーションをしっかりと取れたというのも大きかったです。学園モノだからなのか(笑)、みんなで学生の頃みたいにキャッキャと盛り上がりました。10代の頃って何であんなに次から次へと話題があって、あんなに盛り上がったんだろうと思いますが、あの頃を思い出して若返りましたね」
吉高といえば体当たりで演じきった「蛇にピアス」や複数の男性と同時に付き合う主人公に扮した「婚前特急」など、どこかエキセントリックな役のイメージが強い。今回の七美役は、ごく普通の等身大のヒロイン。これまで演じてきた役柄と比べても決して起伏の激しいとは言えない役どころの内面を数年に及ぶ成長とともに演じるというのは、“女優・吉高由里子”の地力が試される大きな試練だったのではないだろうか。
「確かにちょっと変わった女の子の役や濃いキャラクターのイメージが、世間的な意味での私のイメージなんだろうというのは感じています。今回は原作の絵のイメージもあるので、見る前から『吉高じゃないだろう』って思う方は多いと思います。私自身、原作を読みながら『これは私のイメージじゃないな』って感じていましたから(笑)。だからこそしっかりと役に向き合いたかったし、この作品を経て、みなさんのイメージを含め、自分がどう変わっていくのかというのはいまからすごく楽しみです」
本作に限らず、どんな役柄を演じることになっても、一貫して吉高が大切にしているのは“共感”ではなく“違和感”だという。そんなこだわりから、彼女の女優としての在り方が垣間見えてくる。
「役に共感すればするほど、自分に寄せて演じちゃうんですよね。そうすると『それって吉高じゃん』と言われてしまう気がして……。だからこそ役柄になりきるのではなく、いい意味で違和感というのを持っていられることを確認しながら現場に立っています」。冒頭の言葉に戻ると、「演じることは好きじゃない」とハッキリと断言する一方で、何が好きかと言われれば「映画の現場にいる楽しさが全て」とも言い切る。
「現場の空気感がたまらなく好きなんです。現場マネージャーでいいから、そこにいさせてほしいって思うくらい(笑)。小さい頃は大人が嫌いでしょうがなかったんですけど、年を重ねるごとに大人が好きになってきました。この映画もそうですが、現場にいる方ってみんな本当に純粋に作品に向き合って、私にも真剣にかかわってくれる。自分もその“全員リレー”に参加できている気がするし、その人たちが頑張ってくれていることが、女優をやる原動力になっています」
前篇で演じた17、18歳というのは、吉高にとってちょうどデビュー作「紀子の食卓」が公開された時期と重なる。「怖いもの知らずだった」と当時を振り返りつつ、それから6年を経て「『怖い』と思うことが増えてきた」と胸の内を明かす。彼女はその“恐怖”を決してネガティブな兆候として捉えてはいない。
「大事に思える人や守りたいものが増えてきたってことなのかな。進んで行くにつれて責任も大きくなるし、大事なものをこぼさないで運ぼうとして慎重になったり怖くなったりするんでしょうね。でも自分の周りや好きなことは全然変わっていないんですよ。5~6年前から続けているゲームを家でやりながら『何も変わってないな』って思ったりしています(笑)」