「親子の葛藤がメインのドラマでした。」未来を生きる君たちへ 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)
親子の葛藤がメインのドラマでした。
スサンネ監督作品は、終盤までの物語の起伏が乏しく、苦手なタイプ。それでも毎作品ついつい見てしまうのは、ラストで仕掛けるヒューマンなクライマックスなんですね。そこには、必ず困難を超えて繋がろうとする人と人との結びつきが描かれていくのです。しかし、そこに行き着くまでの道中が、饒舌に思えてなりません。しかし、毎作品高い評価をうけて、ハリウッドでリメイクされたり、本作ではついにアカデミー賞を受賞するに至りました。スサンネ監督作品にケチを付けたがる小地蔵は、作品の良さを理解していないのだろうか?と危惧しつつ劇場に向かった次第です。
スサンネ監督作品には、なにがしかの社会問題が織り込まれます。本作の原題である『復讐』を引き起こしている要因として、アフリカでは理不尽で非道な暴力が描かれ、デンマークでは、移民に対する差別的な感情がむき出しに描かれていました。そして「報復は報復を生むだけ」という赦しの大切さに対して、それが「きれい事」でしかないことをカメラで追っていきます。赦すことはキリスト教の根本的な教えであるだけに、それに懐疑的な目線で描き出すのは、キリスト教圏で暮らすなかでは、凄く大胆な演出だと思います。
大概の作品は、こうした不条理を社会問題としてあぶり出したり、スーパーヒーローを登場させて、問題解決に当たらせたりします。ところが本作では、大上段に描きがちな状況を、誰もが抱きそうな日常生活に常に潜む報復の心理として問いかけるところが秀逸です。見ている方も、こんな状況なら、自分はどうすべきかと考えさせられて、引き込まれていきました。
特にいじめるクラスメートや父親を侮辱した人物に対する報復を思いつく子供たちの揺れの動きは、展開がスリリングであり、共感できる描写でした。たとえそれが爆弾自作による制裁であったとしても。
ただ気にくわないのは、アフリカのパートとデンマークのパートは、全然リンクしていないということです。監督に言わせれば、暴力と報復の連鎖に国境はないのだということが言いたいのでしょうけれど、もう少し関連があって欲しかったです。
アフリカでは、妊婦をお腹の子供は男か女かという賭をして、妊婦を捕まえ、腹をさばいて賭の結果を確認するという極悪非道なビックマンという組織が描かれます。そのボスの末路が描かれるものの、この国の非道な暴力は恐らく残ったままでしょう。世界にはこんなこともあるのだという扱いです。
その辺が女性監督の感覚の違いなのでしょうか。スザンネ監督の関心は、社会の矛盾よりも登場人物の葛藤に向けられていくのです。
主人公の子供のひとりクリスチャンは、末期がんの果てに安楽死してしまった母親を愛する余りに、安楽死を選択した父親を、人殺しと怨んでいました。
一方クリスチャンにいじめから助けてもらったことで仲良くなるエリアスも、父親の浮気が理由で両親が別居し、離婚寸前の状態になっていました。
原題の『復讐』は、一見世の中の不条理な暴力に対するものかと当初はおもわされていました。しかし、後半の展開で徐々に実は、それぞれに両親に対して葛藤を抱えた二人の子供たちの親に対する「復讐」のドラマであったことが浮き彫りにされていきます。
物語が動くきっかけは、人種差別によりエリアスの父親が自動車整備工に殴られたことから。父親は、非暴力で対応し殴られたまま。今の日本の自衛隊のようです。しかし納得のいかないエリアスとクリスチャンは、復讐のために自動車整備工の車を爆破しようとします。父親のための復讐とはいえ、そんな問題行動を起こすのは、やはり心の奥底で、親に対して困らせてやろうという復讐心があってものでしょう。その反面には、親にもっとかまって欲しいという愛情の欠乏を訴えているのでしょう。
さらにたたみ掛けてクリスチャンには自殺願望があり、自らの死で父親に復讐してやろうという気持ちが手に取るように伝わってきます。だから、エリアスを連れて倉庫の屋上の縁に腰掛けるシーンは、今にも飛び降りそうでハラハラさせられました。
クライマックスは、クリスチャンが本気で飛び降りようとするとき。
爆破の結果、エリアスは巻き添えに重傷を負い、クリスチャンはエリアスの母親から人殺しと罵られます。エイリアスが本当に死んだものと思い込んで自分も後を追うことにしたのです。
エイリアスの父親アントンの機転で、クリスチャンが取り押さえられたとき、アントンが語った言葉が秀逸です。医師でもあるアントンは、病死した母親の死が受け止められず苦しむクリスチャンの気持ちを見抜いていました。そこで、死を乗り越える考え方をアドバイスするのです。このやりとりは凄く感動的で、涙が滲みました。最近身近な人をなくして、苦しまれている人には、凄く癒しになるシーンでしょう。
そして、息子の事故をきっかけに、両親の仲も復縁に傾きます。まさに「子はかすがい」なんですね。ちょっと出来すぎの展開かも知れませんが、淡々としたなかに、突如人と人との絆の深さをスパークさせて描くスザンネ監督の手法には、いつも涙を奪い取られてしまいます。彼女の作品の魅力とは、そんなラストに魅せる一発芸なんだろうなと思えます。
登場人物の葛藤を優しく包み込む映像と音楽は、どの作品も詩情豊かでエモーショナル。そんなところもスザンネ監督の魅力だと思います。
ヒューマンドラマをお探しの方には、ぜひお勧めします。