「コドモの、誇り」蜂蜜 ダックス奮闘{ふんとう}さんの映画レビュー(感想・評価)
コドモの、誇り
「卵」などの作品で知られる現代トルコ映画界の代表選手、セミフ・カプランオール監督が、自身の代表作「ユスフ3部作」の第三弾として描く人間ドラマ。
朗読が上手く読めるか、読めないか。大人の視点で観れば、大した問題ではないのかもしれない。しかし、小学生、特に低学年になればなるほど、その価値は濃く、大きくなり、子供たちを悩ませ続ける。読める奴は、もてるし、先生からは笑顔で褒められる。読めない奴は、笑われる。
幼き少年少女を描く物語は数あれど、朗読という厄介かつ複雑なコドモの誇りをここまで前面に、明確に押し出した作品は、そう多くは無いだろう。
養蜂を営む家族に起きた、一つの悲劇。その顛末を残酷なまでに静寂をもって見つめていく本作。物語の本筋として、無口だが息子、ユスフを大きな愛情を持って見守る父と、息子の絆がある。
大きく、真っ直ぐな瞳でむせ返るような緑の熱気満ち満ちる森と向き合っていく一人の少年は、予期せぬ運命に対峙するには余りに純粋すぎるのは明白である。果たして、父を失った息子はどう生きていくのか。生きていけるのか。巨木に耳を当て、姿見えぬ父を探す姿に不安を感じつつ、暗闇を突き進む歩みに、作り手の未来への希望が見え隠れする。
と、大きな枠として位置づけられた父子の物語と共に併走していく小さな、小さな戦争。息苦しい学校の教室の中で静かに流れる、圧迫と緊張の朗読。嘲笑。冷酷なまでに描かれたコドモの自信の崩壊は、本筋よりも熱を帯び、観客の過去を突く。あの頃、あの教室で、生きていた時間。
思い出として懐かしむ事を拒絶する視点が溢れ出し、観客の心を乱す。痛い、苦しい、それでもやっぱり、どこか甘い。他の学園ものが避ける悲しさが、何故か不思議と魅力的に光る一品だ。
ここで一つアドバイスを。観賞前には、しっかり昼寝をしておきましょう。多くの観客が、安らかに寝息を立ててしまう静寂の物語ですので。