劇場公開日 2011年10月7日

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「この自立と別離の物語は、涙無しに語れません。この話の続きを思えば、やはり“Destiny”を強く感じさせるラストでした。」猿の惑星:創世記(ジェネシス) 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)

5.0この自立と別離の物語は、涙無しに語れません。この話の続きを思えば、やはり“Destiny”を強く感じさせるラストでした。

2011年10月25日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

猿の惑星:創世記(ジェネシス)

 人類と猿との戦いを描く「猿の惑星」シリーズは、1968年に第一作が製作され、優れたSFに特有の文明批評、世界観によって大ヒットを記録。70年代にかけ計5本が製作される人気シリーズとなりました。その後、2001年にはティム・バートン監督によって1作目がリメーク。これは、旧シリーズを踏まえつつ、猿が地球を支配した理由を、新たに描き直したSF大作でした。
本作は第1作の“起源”に迫る本作は、なぜ人類の文明が崩壊し、猿が新たな地球の支配者になったのかという巨大な謎の答ぇを提示するディザスター・スペクタル超大作です。
 とにかく猿のリアルな描写が素晴らしい!描かれるのは、虐げられた猿たちが反乱する、一種の革命の物語です。前作では猿に支配される人間たちの念いに感情がいっていきました。ところが本作では、猿の微妙な感情まで伝えるCG技術によって、人間よりも次第に猿に感情移入していくのです。
 その秘訣として、俳優の演技をCG化する「アバター」のWETAデジタル社が手掛けたパフォーマンス・キャプチャー。このモーション・キャプチャー技術の進化が大きいと思います。旧シリーズは、俳優が特殊メークで猿を演じました。本作では、俳優の演技を生かしつつ、本物のチンパンジーと見紛うほどの体形や動きをリアルに再現することを可能にしたのです。もはや「驚くほどよく出来たメーキャップ」ではなく、本物の猿が、人間の表情をしているようにも見えました。
 一匹のチンパンジーを主人公にした発想からして大胆ですが、主人公のシーザーの自我の目覚め、自由への渇望、愚かな人間への失望などを観る者に伝える心理描写は、信じがたいほどリアルで緻密に描かれています。
 それを実現したのは、単に技術だけでなく、シーザーを演じたA・サーキスの演技も評価すべきでしょう。サーキスの演技は、シーザーの成長と苦悩をセリフなしで、人間のキャスト以上に情感豊かに表して、見るものをシーザーに感情移入させた貢献は大きいと思います。
 当初はシーザーに恐れを感じつつも、いつしか彼の心の葛藤に共感を抱き、人間との交流と決別のドラマに涙を誘われてしまいました。

 物語の舞台は現代のサンフランシスコ。若き科学者ウィルのもとで突然変異的な進化をとげたチンパンジーのシーザーが、都会の檻に閉じ込められた猿たちのリーダーとなり、人類から自由を勝ち取る戦いに挑んでいくさまを映し出ていきます。

 父のアルツハイマーを治療するため新薬を開発する科学者ウィル。新薬を投与したチンパンジーは知能が飛躍的に向上しますが、突然暴れ出して射殺されます。そのため全ての実験用の猿が殺処分となるなかで、ウィルはその子供だけを密かに自宅へ持ち帰ります。 いのちを助けるため一時引き取ったつもりだったのに、その可愛さに思わず癒されてしまうウィルは、その子供にシーザーという名付けて育てることになります。
 シーザーとウィルの触れあう姿は、まるで実の親子のようで、感動的でした。やがてシーザーは驚異的な知力を示すものの、そのことがかえって隣家とのトラブルを引き起こします。裁判所の決定でシーザーは、ウィルと引き離され、動物管理施設に収容されます。 やがて仲間の猿たちを組織化しリーダーに君臨する過程は、ほとんど猿ばかりのシーンなのに、ここが一番面白かったです。そして仲間と共に、自由を求めて行動を起こすのです。

 猿の群れがロサンゼルスのビルを縦横無尽に駆け上り、ゴールデンゲート・ブリッジで大暴れするスペクタクル場面では、何とも言えない高揚感に包まれました。シーザー率いる猿たちと人類が繰り広げるクライマックスの壮絶な戦いに息をのむと同時に、作戦面で警察の厳重な警備網を突破する作戦の賢さに驚きました。

 ラストで、戻ってこいと叫ぶウィルに、静かにここがわが家だと応えるシーザー。それは激しい戦いの果てに辿りついた安住の地に佇み、自信満々で群れを率いるリーダーの姿でした。
 あんなに絆が強かった「親子」だったのに!
 この自立と別離の物語は、涙無しに語れません。この話の続きを思えば、やはり“Destiny”を強く感じさせるラストでした。

 注文をつけるとしたら、ドラマッチックな猿側のエピソードと比べて、ウィルが何とか救おうとする父親との親子愛など人間側のエピソードの印象が弱くなってしまったこと。
 また、クライマックスでは、猿の軍団は警察と一戦を交えるものの、人類を制圧するまでには至りません。やや肩透かしの感ありで、それは次回作のお楽しみとなってしまったこと。オリジナルの1作目ほどの風刺も見あたらないのも、まだお話が端緒についたばかりだから仕方なし。続編では、きっと壮大な文明論が展開されることでしょう。

流山の小地蔵