「知能を持った猿の未来は明るくない」猿の惑星:創世記(ジェネシス) DOGLOVER AKIKOさんの映画レビュー(感想・評価)
知能を持った猿の未来は明るくない
映画「猿の惑星 創世記 ジェネシス」、原題「RISE OF THE PLANET OF APE」を観た。日本公開は 10月7日だそうだ。
チャールトン ヘストン主演の「猿の惑星」シリーズは かつて大流行したが それなりに気色悪く、それなりに面白かった。1968年「猿の惑星」、1970年「続 猿の惑星」、1971年「新 猿の惑星」、1972年「猿の惑星 征服」、1973年「最後の猿の惑星」と続けて製作された。4作ともアーサー ジェイコックスの監督だ。2001年にも リチャ-ド ザナックのよって 別の「猿の惑星」が作られている。
今回イギリスの監督 ルパード ワイアットが 今が「旬」のジェームス フランコを主役にして 以前の「猿の惑星」がどうしてできたのか という創世記の話を 映画化した。今さら40年前の映画の筋に 話につなげるのは ちょっと無理がある。しかしそこを 若くて才気あふれ、笑顔が新鮮で愛くるしく 何をやっても憎めない そんなジェームス フランコが 人よりもオツムの良い猿を育ててしまったことが そもそもの「猿の惑星」ができた契機ですと言っている。まあ それでも良い。楽しい映画だ。
監督:ルパード ワイアット
キャスト
研究者ウィル :ジェームス フランコ
猿 シザー :アンデイ サーキス
父親チャールス :ジョン リスゴー
ストーリーは
サンフランシスコに住むウィルは 遺伝子工学の研究者で アルツハイマー治療薬の開発に従事している。仕事から帰ると 父親のチャーリーはアルツハイマーに侵されて認知障害を起こしている。彼は日に日に症状が悪化し、せん妄や暴力的な異常行動が出てきて 家政婦にも手が終えなくなってきた。
ウィルが開発途中のアルツハイマー治療薬は まだ動物などに試してみていないのでどんな副作用が起るのか 未知の段階だ。しかしウィルは 父親の症状がこれ以上悪化することはない と考えて自分が開発し新薬を ごまかして家にもって帰り チャーリーに注射してしまう。
ウィルは 翌日 自力で歩くことさえ ままならなかった父親が すっかり元気な様子で流暢にピアノを弾く音で目を覚ます。劇的にウィルの開発した新薬の効果が出たのだ。喜んだのは父親チャーリーだ。すっかり「治って」もとに戻れたのだから。
一方、研究所では この新薬をテストするために注射されたチンパンジーが突然暴れだし、逃亡しようとしたため銃殺される。暴れ出したチンパンジーは 妊娠していたのだった。殺された母体から 秘密裏に心優しい飼育人によって、助け出された赤ちゃんチンパンジーは ウィルのもとに引き取られることになった。ウィルとチャーリー親子は チンパンジーに シーザーという名前をつけて 自分達の子供のように可愛がって育てる。シーザーは新薬を注射された母親から生まれたから 頭脳は人間並みだ。人のように話すことは出来ないが 言葉を理解する。親子は シーザーが大きくなると ひんぱんに森に連れて行って遊ばせた。シーザーは賢い子に育っていった。
ある日、チャ-ルスが隣の家人と諍いをしているのを 家の中から見ていたシーザーは チャールスを救う為に 家から飛び出して 隣人を傷つけてしまう。その結果 シーザーは警察命令で、猿の保護施設に入所させられてしまった。保護施設では 刑務官に暴行され、他の猿達からはひどい目に合わされて、シーザーは人間不信に陥る。ウィルとチャーリーは すぐに迎えに来ると言うが もう人間は信じるに値しない。
シーザーは研究所から手に入れた 新薬を捕獲された他の猿達に散布する。その結果 何百という猿達が一夜のうちに 人並みの知能を獲得した。シーザーはリーダーとなって 猿達を率いて反乱を起こす。動物保護施設の冷酷な係員は殺され、警察と正面衝突をする大規模な反乱が起きることになった。
一方、シーサーの母親が銃殺されたとき 赤ちゃんのシーザーを救い出した飼育係は 出血性の病気に罹っていた。これは新薬による副作用で 母親チンパンジーからウィルス感染したものに違いない。飼育員がウィルに それを報告しようとしたときは すでに時遅く 飼育員はウィルスをまき散らしながら死んでいった。
ウィルは シーザーの乱暴を止めさせようと シーザーを探し回る。一緒に家に戻って 一緒に暮らそう。しかし、シーザーは 猿の群れを連れて 森に向かう。ウィルが止めるのを シーザーは聞かない。なぜなら、森こそが シザーにとっての家だったからだ。
というストーリー。
たわいないストーリーだけど 動物愛好家にとってはとても楽しい映画だ。シーザーがとても可愛い。彼が 保護施設に入れられ、最も信頼していた人に裏切られた と思ったときの表情、反乱を起こす時の表情が 人並みというか、人以上に 表情豊かで表現力がある。反乱を起こしたかった訳ではなく 反乱せずに居られなかった状況も よくわかる。終わり方も良い。
ただこの作品を1968年から1973年までに制作された映画の「創世記」として捉えるのは つじつまが合わない。SFと言うが、科学的でない。
遺伝子工学によって人並みの知能を持った猿が一挙に 現在68億人の世界総人口に迫るほど増加して地球を乗っ取るほどの力を持つことは 考えられない。地球にはそれほどの 水、食料、エネルギーがない。また猿が 高い知恵を持っても 知能は教育によってしか 継続的に伸びることはできない。人を征服するためには、人以上の継続的 高等教育機関がなければならないのだ。また、猿の寿命を人並みに どうやって伸ばすことが出来るのか。遺伝子操作でそれができるとは 考えられない。
わたしはこの映画は うまく収まって シーザーがウィルとチャーリーから自立するところで きれいに話しが終わるが、実は 未来は明るくない と考える。猿達は出血性のウィルスに感染している。この猿達は 長くは生きられない。おまけに猿達は このウイルスをサンフランシスコ中に撒き散らしたのだ。人の未来もまた 明るくないのだ。
そんな映画だけれども、もともと「サルの惑星」は 皮肉な筋書きの大昔のSFだ。作者のフランス人 ピエール ブールは 自分が戦争中 フランス領インドシナで 日本軍の捕虜になったときの 経験から「サルの惑星」の発想を得たという。
しかし、あまり、深く考えないで 画面を楽しめば それで良いのだ。そうそれで良いのだ。
まあ突っ込みどころは幾つかありましたが、全体的には創世記として辻褄はしっかりあっていたと思いますよ。
そもそも猿の惑星でも猿の人数は68億も居る感じじゃなく少数だったし、文明も今の人間のそれの足元にも及ばない石器時代的なレベルだった。また今回の作品では人間を征服したと言うよりウィルスが世界に拡散して人間が感染して自滅的に滅んで行ったということでしょう。
作品中に言及されていましたが、猿はあの薬で免疫力がアップして、人間だけが免疫力を低下させていた。これは核戦争では説明できないのでこの点でも猿の惑星の創世記として素晴らしい出来栄えですね。猿は感染しないので未来が暗いという事はなく増殖していったのでしょう。
エンドロールでウィルスが世界中に拡散するシーンは思わずぞっとするほど痺れましたね。