「至近距離で生のルーニー・マーラを目撃。精霊のような可憐さの変わりようの落差はノオミ・ラパス以上のものすごさ。」ドラゴン・タトゥーの女 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)
至近距離で生のルーニー・マーラを目撃。精霊のような可憐さの変わりようの落差はノオミ・ラパス以上のものすごさ。
2年前のオリジナルの熱狂的なファンだった小地蔵からすれば、本作はハリウッドリメイクのスケール感を感じさせるものの、作品の重要なディティールを敢えて無視して飛ばしているところが気になります。デヴィッド・フィンチャー監督の作風が好きになれないのも、登場人物に余りフォーカスしないで、傍観者的にカメラが追うスタイルなんです。 それだと、どうしてもストーリーが説明不足で解りづらくなるのですね。「ソーシャル・ネットワーク」でも途中から爆睡してしまいました。
さすがに本作では、ダニエル・クレイグの渋い演技とルーニー・マーラーの全裸のベットシーンも厭わない体当たりの演技で、最後まで眠らずに楽しめました。ただそれも2年前にオリジナルを見ていて、筋をあらまし掴んでいるから楽しめたのだと思います。初めて見る人には、ちょっとオリジナルを見て予習しておかない分かりにくいのではないかと心配です。
オリジナルの良さは、簡潔なエピソードをてきぱきとつないで物語が進行してゆくのは小気味が良いところ。それでも1作目のミカエルとリスベットが出会うまでのふたりの捜査活動がパラレルで展開するところは、どうなっていくのか分かりづらかったのです。 本作では、オリジナル以上に出会うまでが長くなっています。初めて見る人には、このパラレルな進展が理解に苦しみそうです。
ストーリーの紹介は、オリジナルのレビューと重複するので省略します。ぜひ小地蔵のオリジナルのレビューも参考にして下さい。
ここではオリジナルと違う点を突っ込みたいと思います。
まず本作は3部作の1作目として、シリーズのイントロの役割も担っています。「女性虐待」が重要なテーマとなっている本シリーズでは、リスベットと父親の関係も、テーマに関わる要素として欠かせません。なかでもオリジナル1作目の最後に突如描かれるリスベットが実の父親にガソリンを浴びせ放火してしまうシーンは、2作目に繋がる重要なものでした。それを丸ごとカットしてしまうのは疑問です。リスベットが男性を嫌悪し、人間不信にすらなってしまった原因については、やはり1作目から暗示すべきだと思うのです。
またリスベットとミカエルの関係にも異議あり!です。ミカエルが抱える事件解明に協力するようになったリスベットは、ミカエルの出張先で共に寝泊まりして調査活動に当たっていました。そして突如ミカエルにのしかかるようにリスベットが求めるところまではオリジナルと一緒です。しかしその後オリジナルでは、ミカエルが求めると手痛いしっぺ返しを喰らわすのですね。以後ふたりは男女の仲を超越して、同志的な深いつながりで、事件の深淵に迫っていくのです。リスベットの孤独な心を理解していたミカエルの優しさがいいんですね。それを何ですか!(`へ´)フンッ。本作では、エッチしまくりというのはいただけませんね。その分、ミカエルとミレニアム編集長の不倫関係が希薄になってしまいました。
ただ本作にもいいところはあって、珍しくクリスマスプレゼントを用意して、ミカエルのところに訪問しようと、リスベットらしくない行動をおこしたら、あいにく「先客」がいたのです。嫉妬したリスベットは、静かにプレゼントを投げ捨てて立ち去るところは彼女らしくて良かったです。クレイグ版ミカエルは、より色男度アップなんですね。
また1作目の見どころの一つ。リスベットが後見人の弁護士から性的虐待を受けるシーンと復讐するシーンでは、オリジナルの方がよりえぐかったです。
えぐい演出がカットされたところは、後半の連続少女殺人事件にも違いがはっきりします。オリジナルでは、ひとりひとりの事件のあらましを克明に紹介していきますが、
本作はサラリとしか触れられませんでした。やはり丁寧に触れた方が、ミステリーの緊迫感が違ってくるところですね。
事件といえば、そもそもの少女ハリエットの失踪事件の描き方にも疑問があります。なぜか本作では、ハリエットの存在が最後に確認されたスウェーデン北部のヘーデビー島が密室状態にあったことを紹介しません。一本の橋を封鎖されたら、どこにも行けないはずなのに、忽然と消えてしまった謎をミカエルが解明するところが、ミステリーのキモに当たるはずなのにです。
他にも、リスベットが調査のための変装をこなしていくところや、実は一流企業のOLだったことなど彼女の意外な一面を次々明かしていくところがオリジナルの興味深いところでした。そういったオリジナルシリーズの重要ポイントが省略されているところは、演出上疑問に思うのです。
それでもやっぱりグレイグはかっこいいし、説得力をもって不屈のミカエルを演じきっておりました。また試写会では至近距離で生のルーニー・マーラを目撃できました。あの精霊のような可憐な女性が、リスベットのような魔性の女に変われるのだろうか!その変わりようの落差はオリジナルのノオミ・ラパス以上のものすごさと太鼓判を押しときます。その辺がアカデミーノミネートの理由でしょう。それでもあの独特のリスベットの雰囲気は、ノオミ・ラパスが一枚上手だと小地蔵は押したいですね。