「人間の闇の部分を暴いた力作」ドラゴン・タトゥーの女 みかっぴさんの映画レビュー(感想・評価)
人間の闇の部分を暴いた力作
寒々としたスウェーデンの風景…そして物語の幕開け。
と思いきやツェッペリンの「移民の歌」(カバー曲である)が独立した1本のミュージックビデオと言ってもいい程のインパクトで流れ出す。
次々と流れるのは無機質でメタリックなオブジェのよう。
さすが数々のミュージックビデオの秀作を生み出したデビッド・フィンチャー…
作品の細部にも作り込まれた拘りが感じられる。
そう、そんなワケですっかり不意を突かれてしまったのだ。
本作品は、スティーグ・ラーソンの著書であるミレニアムシリーズ第一作「ドラゴン・タトゥーの女」の映画化である。
(2009年に本国スウェーデン版もすでに製作、公開されている)
まずは長い原作を、よくぞここまで凝縮できたと賞賛すべきだと思う。
映画本編は私感ではあるが、トリロジーとして成り立っていると感じた。
1つ目は物語のテーマであるスウェーデンで抱える問題をリスベットというラディカルな人物を通して提起する。
一方ミカエルとある一族が関わって行くプロローグ。
次にミカエルとリスベットが繋がり、事件を徐々に紐解いて行く中心的な部分。
最後に後日談を軽快なテンポで流しつつリスベットを一人の女の子として描く、そして迎えるほろ苦いラスト。
ラストでは、ヒロインへの好感がわき上がり、なんとも言えない愛おしささえ感じてしまった。
キャスティングのよさもさることながら、ミカエル役のダニエル・クレイグとリスベット役のルーニー・マーラーの熱演が特に素晴らしかったと思う。
どちらかといえばクリンとした目がかわいらしい、ルーニーにエキセントリックなヒロインが演じられるのかと思っていたが、メイク技術や彼女の役作りそして演技力で見事にリスベットに変身していた。
顔自体「ソーシャル・ネットワーク」のかわいらしい女の子とはまったくの別人だったのがすごい。
原作は、全作を通して「女性に対する不条理な偏見や暴力」というシビアな題材が扱われているが映画でも重要なファクターとして描かれている。
DVDの特典映像ではこの映画に出演しているスウェーデン人であるマルティン役のステラン・スカルスガルドは「スウェーデンはそういった暗い国ではない」と否定的な意見を表明していうのも興味深かった。
主人公リスベットに対する暴力的なシーンは、個人的に目を覆いたくなったのが本音だが、その後彼女が「目には目を」といった行動を取っているのはある意味見る者に勇気を与えていることだろう。
ただ、本で読むのと実際に映像で見るのとは数倍違っていることは確かだ。
裏を返せば、演出と演技力の素晴らしさの賜物だ。
小説には読む者に想像させるというワンクッションを置いているが、対して長い原作を限られた時間に凝縮させる映像作品は直接視覚に訴えなければならない使命がある。
「不快なシーン」「残酷な光景」を嫌悪しながらも、それを見ずにはいられない人間の本能、フェティシズムな一面を誰しも持っている。
そういう人間の闇の部分が、「ドラゴン・タトゥーの女」でも浮き彫りにされている。
全編通して、やはり暗い…暗闇のシーンが多い。
そんな中でも、ブルーグレーの彩度を落としたスウェーデンの並木道や雪に覆われ、メタリックを帯びたような風景がなんとも美しい。
(本人ブログより引用)