「映画監督とは・・・なんだろう?」ドラゴン・タトゥーの女 ダックス奮闘{ふんとう}さんの映画レビュー(感想・評価)
映画監督とは・・・なんだろう?
「ソーシャル・ネットワーク」で、映画作家としての評価を高めているデビット・フィンチャー監督が、「007」シリーズでジェームズ・ボンドを華麗に演じるダニエル・クレイグを主演に迎えて描く、サスペンス作品。
映画監督、その意味を明確に答えられる人は意外と少ない。「緻密なストーリー展開が、この監督の持ち味だよね」と知ったかぶりで答えても「それは・・脚本家の仕事じゃない?」とコーヒー片手に友人に批判されたら「うう・・」と反論できない。「あの俳優を活かすのは、やっぱりあの監督だよね!」と叫んでも「プロデューサーじゃねえ?それは」と漫画片手に恋人に反論されると「・・ひどいわ」と目を潤ます彼女。
映画監督・・って、なんだろう?その答えを誰もが納得できるように説明できる人間は、多くの映画関係者に尊敬されるだろう。それだけ、立ち位置は曖昧で、灰色の職業だ。
本作は、もしかしたらその答えの一つを提示している作品なのかもしれない。多作かつ高品質という二つのハードルを軽々と越える男、デビッド・フィンチャーその人の最新作である。
スウェーデンで既に3部作が映画として発表され、そのダークな世界観に注目が集まった「ミレニアム」シリーズ。だが、極めて陰湿な描写が静かに、詳細に書き尽くされる生真面目な描き方に、いささかお腹いっぱいになった私としては、「うーむ、またあの濃厚な胃もたれですかい」と心配になりつつ鑑賞。そんな方も、少なからずいらっしゃるはずだ。いると信じたい。
だが、その想定は見事に出鼻をくじかれる。オープニングからスタイリッシュなスピード感が暴走する「格好良い」世界。「お?」と思わず身を乗り出すと、その興奮は出鼻どころではない。遠慮なしの疾走演出で物語を走らせ、眠る暇を与えない。「え!」「何!」「ひー」を繰り返しているうちに、血みどろ世界もいつのまにやらスタイリッシュ。
個々のキャストの毒々しさを表出しながら、娯楽として成立する親切な分かりやすさもさり気なく。同じ原作をもとにした作品とは思えない、物語への姿勢の違いが個性として溢れ出す。一方は生真面目に、もう一方はヤクザにかつ饒舌なピエロのように陽気に。
映画監督とは、なんだろう・・・その答えの一つは「デザイナー」だ。誰かが作り出した秀逸な素材、原稿を、媒体として人に差し出すために体裁を整える。切る、張る、はめ込む。その「魅せる雰囲気、印象」を創造する役割こそが映画監督の使命だ。そんな答えが、デビッド・フィンチャーの味わいから見えてくる。
映画監督が、映画を創る。そんな事がまことしやかに語られる現代。でも、それはちょいと違うんでないですか?と、静かに、笑顔で作品をとおして観客に教えてくれていうように感じられるこの監督の作品。その反骨心とデザイナーとしての職人気質に支えられた、高い志が見え隠れする一本だ。
何はともあれ、あのオープニング。オープニング。ただただ、格好良い。それだけでも、この作品を鑑賞する価値、ありである。