「悲しきヒロイン、リスベットの物語」ドラゴン・タトゥーの女 銀平さんの映画レビュー(感想・評価)
悲しきヒロイン、リスベットの物語
大抵の映画のオープニングというのは、流れる風景をバックに、粛々と音楽が流れ、スタッフ&キャストの名前が点々と出てくるもの...観客がゆるやかにその映画の中に入っていくようなものが多いと思うんですが、この作品のオープニングは凄いですね!
オープニングとして完全に独立しているというか、良い表現が思いつかないんですけど、TVドラマとかのオープニングみたいです。おどろおどろしいイメージ映像ですが曲が素晴らしく、これは文句なしにかっこいいと思います。
このオープニングによって、観客の期待感の増大&作品に引き込むという目論み(?)はほぼ成功と言えるでしょう。
私は、原作本&スウェーデン版映画は見たことがありません。
昔(40年前)、或る富豪一家に関係する「ハリエットの失踪」という未解決事件があり、その真相を解明しようとするサスペンスストーリーです。
感想としては、事件の真相については、それほどでもなかったかなぁという印象です。「誰も予想できないような驚きの結末」とか「とてつもない傑作ミステリー」のようなものは無かったと思います。
そこのところはドラマ「相棒」の2時間スペシャルとかの方が、勝ってるかも。
事件に関わっている「ヴァンゲル家」の面々が○○の父○○、○○の叔父○○、○○の妹○○、○○の兄○○...だのと、人数が多くてなかなか覚えられず、これを理解するにはもう何度か見てみる必要がありそうです。事前予習をしてから見ることをお勧めします。
ストーリーが進むにつれ、40年前のハリエット失踪事件の謎を追いかけていたのが、途中でとんでもない猟奇的連続殺人事件の真相に近づいていきます。
それでもって、その連続殺人事件の犯人との対決の一部始終は、悪くはなかったんですけど、決着のつき方が少々あっさり気味、という感じがしました。もう少しいろいろあればなぁ…と(^ ^;)。
サスペンス映画なのにミステリー要素は普通レベル...ではこの作品の魅力って何なのでしょう?
それは、やっぱり主演の2人、とりわけヒロインの方にその要因があると思います。
だいたい、映画のポスターからして、ダニエル・クレイグの正面写真と、やけに浮世離れして見えるモヒカン頭の美女。至ってシンプルな構成&モノクロ写真なのに、インパクトは大きい。
ヒロインのリスベット・サランデルは、序盤は「他人と関わる事を極力避け、孤独を飼い慣らしている孤高の天才」といった感じです。
彼女は美人なのですが、わざと近寄りがたい異様な容姿を作り上げ、他人を警戒し、「敵」と見なした者には、肉体的&精神的に容赦なく痛めつけます。
途中でリスベットの後見人になる肥満体の弁護士は、彼女を「一般社会に溶け込めない精神障害者」と見下して、強引に猥褻行為を行います。それによって彼女の逆鱗に触れてしまい、3倍・・・いや5倍返しとも言えるような地獄の苦しみを味わう事になります・・・。
(序盤にその強烈な痛いシーンがあるので、そのインパクトが強すぎて、そのあとの事件の謎解きの緊張感とかの印象が薄くなってしまったのかも知れません)
しかし、そんなリスベットがミカエルと事件の捜査に乗り出し、時には一緒に、時には別行動を取りながら、事件の謎を追う過程で、徐々に彼女はミカエルに対して心を開き、信頼を置き、仕事のパートナー以上に親密な間柄になります。
そして終盤では、完全に「恋する女」になっているのがよく分かります。
捜査が終了し、彼女の態度は明らかに最初とは変わっています。
もともとの後見人だった弁護士さん。
途中で脳出血で倒れ、その後遺症でろくに会話もできない状態になってしまいますが、この弁護士さんとリスベットは強い信頼関係を築いていた事が窺い知れます。
チェス盤を挟んで、彼女はその弁護士さんに「今まで迷惑ばかりかけてごめん。私、友達ができた」と話しかけます。和やかに、どこか嬉しそうな表情で。
おそらく彼女にとっては数少ない、完全に打ち解けた間柄の、全面的信頼を寄せる人物であったと思います。
そんな人が、会話もできず意思の疎通もままならない状態になってしまった事を考えると、ひどく彼女が可哀想に思えて仕方ありません。
そして決定打になるのはラストシーン。ミカエルに思いを寄せつつも、その気持ちが報われない事を思い知らされる。
ミカエルは自分の居場所(家族のもと)へと戻って行き、リスベットは一人取り残され、結局また、孤独な日常に引き戻される。
彼女もきっと心のどこかでは、そうなる事を予想していたと思います。でもそれと同時に、ミカエル同様、自分にも居場所を持ち、孤独から抜け出したいと、もしかしたら思っているのかも知れません。
少々飛躍しすぎかも知れませんが、映画を見終わってからそう考え、とても悲しくなりました。
・・・なんとも、切ないではありませんか。
徹底して凶暴な一面と、卓越したスキルを持ち、そして頭脳明晰な切れ者。
単に反社会的なアウトローではないし、好きこのんで孤独な環境に身を置いている訳でもない。
かなり斬新なヒロイン像。リスベットが主人公と言っても過言ではないと思います。
ミステリー云々より、このヒロインを見るだけでも、価値がある、と思う次第です。