「想像力の賜物。」ヒューゴの不思議な発明 ハチコさんの映画レビュー(感想・評価)
想像力の賜物。
今作もこの邦題タイトルどうなの?という意見が多い作品。
どう考えてもファンタジーだろう、という予測を見事裏切り^^;
けっこうリアルでダークなヒューマンドラマになっている。
J・メリエスが登場するあたり、マジック的な要素が使われて、
機械人形など夢ある仕掛けも描かれるが、時代が時代であり、
この主人公がどう見ても私にはスコセッシ本人、彼が思い描く
ファンタジーという領域を感じた。彼が描くとこうなる、という。
そもそもスコセッシと子供向けファンタジーなんて、まったく
想像できなかったのだ。だから、あぁやっぱり~という納得が
今作を観てできたような気がする。豊かで幸福な子供時代を
送ってきたわけではないので、せめて子供が主役(でもないが)
というだけでも、映画という夢の世界への扉を描いただけでも、
彼には十分にファンタジー映画だと言えるんじゃないのかな。
主人公となるヒューゴだが、個人的にそれほどの思いは入らず、
彼の相棒?となるジョルジュの養女のイザベルも普通の感じだ。
今作で圧倒的に描かれるのはサイレント時代の作品、メリエスを
はじめ、映画の創成期を支えた数々の作品を披露しているところだ。
映画ファン(特にその頃の)が支持するのは、本来の映画が持つ
映像表現の意味とその素晴らしさ、ビックリ度、当時の観客が
映画に夢を抱いていた理由がハッキリ観てとれる面白さなのだ。
今でいえば3Dのような、何でも新しいものがヒットに繋がる
斬新さが必要なのと同時に、日常からかけ離れた世界に導いて
くれるという、一時の妄想空間、これが生きていく上で必要か
必要でないか、なんていう野暮は置いといて浸る時間の快楽性。
現実逃避を是とするか否とするかで心の持ち味は変わってくる。
私は映画が好きだから幾らでも妄想世界に入りたいものだが、
そうでない人間からすれば下らない金のかかる趣味に他ならない。
人間の心を豊かにするのは、必ずしもこればかりじゃないけれど、
観ることを楽しむというのは100年以上も前から普遍的だったのだ。
その事実は嬉しいし、またこうして古いフィルムにお目にかかれる
(しかもデジタル処理されて)のは新しい発見に繋がる可能性もある。
実はスコセッシはそんな活動も、無償でしているのだ。
今回のアカデミー賞で、今作とフランス映画が二手に競い合った。
そのどちらもが過去のサイレント時代の作品に敬意を表し、
改めて映画のもつ力=マジックに酔いしれようと時代を遡らせた。
映画は想像力の賜物だと私は思っている。
それが最も簡単に味わえるのが音のないサイレント映画なのだ。
なんだか映画の感想じゃなくなってきているんだけど^^;
つまりはこの作品、3Dに酔いしれるか、映画愛に酔いしれるか、
そのどちらにもならないか、なんである。
物語としてはまったく普通だと私は感じた。特異性は感じない。
俳優陣も豪華だったが、記憶に残ったのは鉄道公安官のしつこさ、
嫌味な役を見事に演じたボラット^^;のS・B・コーエン、くらいだ。
孤児の苦しみや貧困をこれでもかと喧しく表現してみせた。
親を失った悲しみ(先日観た「ありえないほど~」もそうだったが)、
何かにすがろうとする想い(鍵や鍵穴探しに通じる)は子供時代の
繊細な心に大きな影と生きる糧を与える。
ヒューゴが大切に大切に温めてきたものが、予期せぬ人に大きな
収穫を与え夢を取り戻させ、自身をも幸福に辿りつくことができた。
フワフワしていないが、こんなファンタジックな締めくくりもいい。
(今一度、往年の無声映画に乾杯。邦画もいっぱいあるんだよ~v)