「役所さんのコミカルさと小栗さんのナイーブさが上手く混じり合う。」キツツキと雨 梅薫庵さんの映画レビュー(感想・評価)
役所さんのコミカルさと小栗さんのナイーブさが上手く混じり合う。
何があるというわけではないけれど、こころが暖まる映画。
映画全編ののんびりとした雰囲気は、ロングでのショットや、長廻しが多いせいもあるのだろうけれど、これがまず自分にあう。
一番好きな場面は冒頭、役所さんが扮する樵、克彦が山中で木を伐採し枝打ちをする、そしてタイトルが出てくるまで、この主人公のひととなりの全てを語っている。このセンスが映画に対して感情移入しやすくしている。
また、映画の撮影を題材に劇中劇に仕立てた映画って、トリュフォーの「アメリカの夜」の他、それこそたくさんあるけれど、どれもほのぼのとした気分にさせてくれる。どんな小さい役であっても映画に対する想いが感じられる。例えば、撮影隊のベテランチーフ助監督(古舘寛治)が、プレッシャーに耐えかねて撮影現場を逃げ出そうとする新人監督幸一(小栗旬)に「誰もがなぁ、監督になれるってもんじゃねぇーんだぞ!」と言いながら蹴飛ばそうとする場面、これは映画好きならだれでもグッとくる台詞、場面だと思う。
そういったことも含めて、この「キツツキと雨」は、老境に至り一人で生きていこうとする無骨な初老の男と、集団をまとめざるをえない不器用、優柔不断な若者が、映画という魔法で気持ちが変わっていく様子をユーモアたっぷりに描いていく。
妻に先立たれ、一人息子は自分から離れていく、仕事中の事故で肺が潰れ身体の不安もある60歳の克彦。
村である日であった若者幸一(小栗旬さん、これは克彦の息子と同じ名前だ)は、彼から見れば相当だらしがない。出て行ったという息子とダブらせながら、話をきいてやると、その彼は村で「ゾンビ映画」を撮っているという。
あることがきっかけで克彦は、そのゾンビ映画の手伝いをするようになる。最初はただ面白いだけのものが、撮影隊の人々と交わるうちに、本業の樵よりも、そして自分の生活よりも、映画作りに熱中してしまう。
役所さんのコミカルさ、小栗さんのナイーブさが、全体の雰囲気を壊すことなく、物語の流れの中に自然と溶け込んでいるのが、とてもいい。
映画という、集団であるものを創り出す喜びを、齢60にして知った克彦が、その気持を新人監督幸一に想いを語る温泉場の場面、逆に幸一が、自分のハッキリしない性格のために撮影隊をまとめられず、そのせいか映画に対する複雑な想いを克彦に語る食堂での場面、特に後者で、甘いものを禁じられていた克彦が、蜜をタップリかけたあんみつを頬張り、それを幸一に食わせる場面は、二人のお互いの気持が氷解する様子を、ベテラン、若手俳優のアドリブをもって十分に味わうことが出来る。
そういえば、前回観た役所さんの「聯合艦隊司令長官山本五十六」でも、将棋の場面がわりあい印象的だったけれど、この映画でもキーポイントになっていたな。
あと「マイバックページ」(2011)にも出ていた、古舘寛治さんも出演、GJ。