劇場公開日 2012年4月28日

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「まるで、ルキノ・ヴィスコンティのイタリア貴族一族の物語の日本版のような映画です」わが母の記 あき240さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0まるで、ルキノ・ヴィスコンティのイタリア貴族一族の物語の日本版のような映画です

2025年6月25日
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わが母の記

2012年公開、松竹
同名の井上靖の小説の映画化
原作は老いた母の80歳ぐらいから、亡くなるまでの10年程を描いた私小説です

その映画化ですから、本作も作家の主人公と認知症を患っていく母との交流がメインの物語となります
しかし、映画としての本作は、それを描くと同時に、違うものを描こうとしています

それは戦後日本の上流階級の家族の風景です
まるで、ルキノ・ヴィスコンティのイタリア貴族一族の物語の日本版のような映画です
伊豆の屋敷、川奈のホテルなどの当時の庶民とは大きく格差のある生活ぶりが、美術セット、衣裳など克明に再現して映像化されています
名優達が結集されていて、若い娘役を除けば皆昭和な空気感を出せる俳優ばかりです

昭和の空気感が破れて、21世紀の空気が流れ込んでしまい夢が覚めることは一瞬もありません

それにカメラが抜群に上手いです
カメラは芦澤明子さん
柔らかな暗めの光源で肉眼に近い見え方で、その俳優達を捉えていくのです
しかもその構図の取り方にも味わいがあります
家屋の中、外、どこを撮っていても気付くと直線の透視線と消失点を感じる瞬間があるのです
小津安二郎作品のような縦横の直線の拘りが画に美の快感を感じるように、そのような感覚を覚えました

また
「七つの大罪」、「処女の泉」
イングマール・ベルイマン監督の代表作名が突然登場人物から飛び出します
けれども、それは、監督の好みということだけで、本作の根幹には関係のないことのようです

樹木希林さん
さすがの名優ぶりでした
本作では杉村春子さん的な味わいがありました

このような上手い老け役女優は昔は何人かいたものでしたが現代では思い当たらないのは悲しいことです

あき240
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