「ブリタニア人とイギリス人」第九軍団のワシ よしたださんの映画レビュー(感想・評価)
ブリタニア人とイギリス人
折しもイギリスでは今日、EUからの分離の是非を問う国民投票があるそうだ。自分もユリウス・カエサルの「ガリア戦記」と、その時期について語っている塩野七生「ローマ人の物語第4巻」をちょうど読んでいたので、「第九軍団」という言葉には心が湧き踊る。
2頭立ての馬に曳かせた戦車での描写や、ローマ軍重装歩兵の亀甲陣の戦術は塩野の著述と映画が同じである。文章で読んだことを映像で確認できて満足。ブリテン島北部への潜入以後はご都合主義のオンパレードであるにしてもだ。
むろん、「ガリア戦記」も塩野の著作も、この映画もローマ帝国側の視点に立っている。野蛮で獰猛な、ローマの文明世界とは相いれないブリタニア人というのが共通するスタンスであろう。
そのブリテン島の住民も、産業革命やピューリタン革命以来西欧世界の文化や思想の代表格となってきた。このことは、20世紀に合衆国が覇権を握ってからも、UK出身のミュージシャンがヒットチャートを席巻し、音楽史に名を残した人々のいかに多いかに思い返すだけでも十分に実感できる。
紀元後21世紀となる現在、このブリタニアにおいて、再びヨーロッパ世界からの分離を主張する声が大きくなっているという。
「ガリア戦記」の紀元前1世紀や、この映画の紀元後2世紀のように部族長たちではなく、このたびは西欧式に議会や国民投票で意見の集約が図られる。
しかし、いずれにしても、少なからぬブリテン島の住民たちは、古代のように大陸の干渉から逃れたいと思うようになってきたようだ。彼らが西欧に包摂された「イギリス国民」である以前に、ブリテン島の島民であることを世界は思い出すときが来たようだ。彼らはハプスブルグ家の領邦であったこともなければ、ナポレオンやヒトラーに屈したこともないのだから。