劇場公開日 2012年1月21日

「過去最高傑作!巧みな脚本で期待どおりに泣かされましたぁ!」ALWAYS 三丁目の夕日’64 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)

5.0過去最高傑作!巧みな脚本で期待どおりに泣かされましたぁ!

2012年1月14日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

 シリーズ最高傑作と前評判の高い本作。まあ前回並みなのではと思ったら、今回はストーリーも錬られていて、前2作よりも、たっぷり泣かされました。

 今回のいいところは、伏線の張り方が巧みで感動を呼ぶ原動力となっています。オリンピック開催のちょうど64日まえから始まる今回。3作目にして凄く熟成された味わいがありました。

 今回の話のメインは二つ。六子と淳之介の巣立ちが描かれていきます。
 鈴木社長ならずとも御上りさんだった六子にも恋人ができ、嫁入りしてしまうなんて、月日が経つのは早いものです。
 同じく淳之介の変化も大きかったです。登場時はハナタレ小僧だったのが、なんと秀才タイプの高校生に成長していました。頭の良さそうな風貌には、親代わりの茶川も末は東大にと期待するのも無理はないでしょう。そんな期待が裏目に出て、淳之介を追い出す展開はまさかと思わされました。
 これまで何度も別離の危機を乗り越えて固い絆で結ばれてきたふたりの関係に終わりの日が来るなんてとても意外な展開というほかありません。

 このように書くと単純ですが、今回は手の込んだ「訳あり」を用意して、ふたりの巣立ちを阻みます。
 六子を見染めた青年医師・菊池は、首尾良くデートまで持ち込んだものの、「ご町内のCIA」たる大田キンがしっかりマーク。勤務先で女癖が悪いらしいという噂を聞きつけたキンは、六子を呼びつけてきっぱり別れろと迫ります。
 そんな事を露とも知らない菊池は、六子を1泊二日のバカンス旅行に誘い、それが鈴木社長の耳に入ったものだからさあ大変。堂々と挨拶する菊地を前に、シリーズ最高値の激高ぶりを見せます。このシーンは、鈴木社長の大爆笑の大熱演!見どころです。
 菊地を知る小児科医・宅間史郎の弁護によって、疑惑は解消されるものの、菊地が背負っている秘密とは、この時代ならではの社会的な矛盾に立ち向かっていて、本当の幸せとは経済的な発展ばかりでないことをしんみり考えさせられました。
 鈴木社長夫妻を東京での両親と慕う六子が花嫁となって別れの挨拶をするシーンが、とても感動的でした。鈴木社長の息子が、親子じゃない・・・!?と強烈に突っ込んでも、やはり共に同じ屋根の中で暮らした家族の絆は浅からぬものだったのですね。

 一方、淳之介にも秘密がありました。茶川に内緒で投稿した小説が「冒険少年ブック」に連載されて、いつの間にか茶川の作家としての立場を脅かす人気作家となっていたのです。茶川はそれを知らず、二階を増築して勉強部屋を提供するほど、入れ込んでいたのです。そして東大目指して勉学に励んでいるものと信じ込んでいました。また二言目には、こんな売れない作家にはなるなよと淳之介にいうのです。
 ある日淳之介が原稿を書いているところがバレて、執筆禁止が言い渡されます。淳之介は、育ててもらった恩義と感謝を決して忘れない律儀な青年に育っていました。だから黙って、アイデアノートと書きためた原稿を燃やしてしまうのです。淳之介の気持ちを思うと、グッときましたね。

 ただ二人の巣立ちと対比して、目立つのは大人になりきれない茶川の苦悩ぶりです。必死で父親らしく振る舞おうとすればするほど、空回りしてしまうのは、茶川自身のトラウマによるものでした。実は茶川もまた厳格な父親から、東大進学を押しつけられて、小説家になるという夢を立てきれず、勘当された身の上だったのです。ところが自身が父親的な存在となると同じような押しつけを淳之介にしてしまっていたのですね。実は親子関係のトラウマって、これだけは嫌だと思っていたことを親から受け継ぎやすいものなのです。
 しつこく執筆の再開を求めて、淳之介の面会に来る編集者の富岡にキレた茶川は、淳之介に本当の気持ちを迫ります。このときの淳之介の台詞がいいのです。この出来映えいかんで全体が総崩れしかねない重要シーンに演じた須賀健太は寡黙になったそうです。でもなんでそんなに茶川が好きで好きでたまらない小説家になることを、自ら売れないからダメだ否定するのか!僕から書くことを奪わないで!という淳之介の魂の叫びは、しっかりこころに焼き付くことができました。
 きっと、淳之介から子離れして、ライバルの作家として認めたとき、初めて茶川も父親からのトラウマの呪縛から離れて、自己確立し作家として再起を目指せるようになるのでしょう。そして何よりも、茶川の父の本当の気持ちを知るとき、茶川の淳之介への本心も分かってしまい、ちょっと芝居かがった茶川の怒り方に、涙を誘われてしまうのです。

 余談ですが「北の国から」で須賀と同じ年頃に、喧嘩のシーンを撮ったとき同様の緊張を味わっていた吉岡秀隆は、須賀の成長をまるで茶川の気持ちになったように頼もしく思ったそうです。小雪の励ましもあり、まるで劇中さながらのファミリーという感じが、そのまま画面に出ている感じでした。
 また富岡役の大森南朋は、敢えて感情を抑えた目立たない黒子役ぶりが印象的でした。
 さらに、今回のサブメインのエピソードとして、ヒロミの出産があります。子供が生まれるところで二人の巣立ちのストーリーは大団円を迎えます。演じる小雪自身も妊娠した時期にあり、実感を持って母親になる期待感溢れる優しさに包まれていました。

 小地蔵は、この作品に昭和の松竹喜劇のテイストを感じます。寅さんシリーズを盆暮れに見て青春期を過ごしたものとして、かなり今回は似てきたなぁというのが実感です。もちろん山崎監督は、昭和の名作の研究も余念がないでしょう。でも、不器用で気位の高い茶川はまるで寅さんが乗り移ったような間合いなんですね。そして鈴木社長との激しい言葉の応酬は、寅さんとタコ社長のやりとりにそっくりです。
 ずっと身近で渥美二郎の芝居を見て育った寅さんファミリーの吉岡秀隆。今回は、寅さんの遺伝子が埋め込まれているのではないかと思えるくらい自虐ぶりを見せてくれて、それだけで、こころが熱くなりました。顔で笑って、こころで泣く。あの寅さんの名演技の系譜は、きっと吉岡秀隆から須賀健太へ引き継がれていくことでしょう。

 本作の楽しみ方に、昭和へのこだわりが凄いことが挙げられます。精巧な東京タワーはもちろんのこと、小道具の細かい一つ一つが全国から取り寄せられたものだそうなのです。また当時流行った『シェー』やみゆき族なども登場。見るものを1964年の時代に確実にタイムスリップさせてくれます。

 朝日新聞のアンケート調査に依れば「5年後のあなたの生活は」の問いに、「良くなっている」と答えたのは中国71%、韓国48%に対し、日本はわずか7%。日本人が際立って悲観的なんです。特に中高年のなかに「日本の先行きは暗い」と考えている人が多いそうです。長い不景気を経験して、いま日本人の中高年層は、なかなか夢と希望を抱けない現実が横たわっています。だからこそ本作で、悲観してはいけないことを思い出してほしいと思います。鈴木社長の台詞で、戦後の焼け野原から、オリンピック開催にまで復興できたことの喜びを爆発させる言葉が綴られていきます。

 三丁目の住人に負けないくらい夢と希望を持ち続け、世界に冠たる日本をつくりあげ、後世への贈り物としようではありませんか!

流山の小地蔵