劇場公開日 2012年2月11日

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はやぶさ 遥かなる帰還 : インタビュー

2012年2月6日更新
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江口洋介「はやぶさ」で放った新たなる輝き

江口洋介には男がほれる魅力を感じていた。これまでのキャリアで、グイグイと周囲を引っ張っていくリーダー的な役どころの印象が強いからかもしれない。「はやぶさ 遥かなる帰還」で演じた宇宙科学研究所(JAXA)・藤中仁志教授は、小惑星探査機はやぶさのイオンエンジン担当。技術者の代表的存在として、日本が成し遂げた歴史的偉業を描く群像ドラマの中核を成す。一方で、渡辺謙扮するプロジェクトのリーダーとの微妙な関係性や、唯一感情を爆発させるシーンがあるなど、物語に起伏をもたらす重要な役割も担い新境地を見せている。(取材・文/鈴木元、写真/堀弥生)

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そもそも江口のリーダーシップを意識したきっかけは、「ひとつ屋根の下」の“あんちゃん”だろう。以降も、10年以上続く「救命病棟24時」シリーズしかり、破天荒な校長先生を演じた「スクール!!」しかり、職業やスタイルに違いはあるが常に先頭に立って困難と真正面から向き合い家族、仲間、生徒を引っ張ってきた。

さて、「はやぶさ」である。出演依頼は、はやぶさが7年、60億キロの航海を経て地球に持ち帰ったサンプルが小惑星イトカワのものだと確認され、日本中が歓喜に沸いていたまさにその頃だった。

「実話に基づいたドラマなので、まずは内容を知るためにばく大な数の本や映像を見て、すごく夢のある話だと思いました。ものすごくラッキーであり奇跡的ではあるけれど、絶対に諦めないという精神性を感じながら、自分の役を考えながら入っていった感じです」

モデルとなったのはJAXAの国中均教授。本人に会うことはかなわなかったが、JAXAに赴き、同じ職場のスタッフらに話を聞くとともに、映画としての成立のさせ方を模索したという。

「はやぶさが戻ってこない間、本当に気が気でないだろうけれど、スタッフにはそういう態度を見せなかったというような話を聞きました。言ってみれば数字と計算の世界で、リアルにラジコンでロケットを飛ばしているわけではない。だから本当はもっと冷静な方だったと思うけれど、劇映画としての物語性をつけるために、あえてオーバーに喜怒哀楽を激しくやったところはあります。実際にイオンエンジンも見せてもらい、本当に宇宙空間で1円玉をポンと飛ばしてフワーッとゆっくり行くような感じで、あれは省エネの極みですよね」

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とはいえ、撮影はほとんどが東京・大泉の東映撮影所に建てられた管制室や運用室のセット。はやぶさを見ることも触ることもできず、動きも制限される。これには俳優として歯がゆさがあったと振り返る。

「もっと動ければ表現の仕方もいろいろとあるけれど、机の上の画面に向かっているだけですからね。台本ではほんの1、2ページでもその間に3年、7年たっていたりすることもあるので、時間軸が分からなくなることもある。その中で髪型を疲れている感じにするとか、モニターを見続けて目がしょぼしょぼしている感じなどをどう出すかなどは、毎回、(瀧本智行)監督と話しながらでした。実際の人たちを考えれば、本当にクールに顔色を変えずにプライド同士がぶつかっていると思うんですけれど、少しでも喜怒哀楽が見えた方がいいと意識しながら、悔しさや耐えるということも含めてやっていきました」

それでも、持ち前の“熱さ”を胸に秘めていた感がある。特に、山口教授役の渡辺との関係性は、同じJAXA教授でありながらプロジェクトのリーダーに対する畏敬と反骨、二律背反の感情が垣間見える。藤中の「『できません。動きません』って降参したくないんだよ、山口先生には」というセリフが象徴的で、渡辺との初共演にも刺激を受けたようだ。

「謙さんは、役柄的にもこの映画でもプロジェクトマネージャーなので、ある客観性を持ちながら現場に取り組んでいた。僕の立場は、リーダーに対して技術者代表、スタッフの一員として、そのリーダーの無理難題、指令をかみ砕きながら、第一にはやぶさが無事に帰ってくること、小惑星探査機の未来への興味との折り合いをつけてやっていましたね。映画に向かうアプローチは俳優それぞれで違うと思うけれど、謙さんはハリウッドも経験して、やっている仕事の幅が圧倒的なので、どう臨むかというのは興味深かった。そうしたら、すごくストレートに取り組んでいて無理がない。そうやって自分を切り開いてきた人なのだろうと思い、謙さんと映画の中の山口教授がだぶるような感じでした」

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インタビュー2 ~江口洋介「はやぶさ」で放った新たなる輝き(2/2)
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