劇場公開日 2011年4月2日

「今、だからこそ伝えたい」津軽百年食堂 ダックス奮闘{ふんとう}さんの映画レビュー(感想・評価)

4.5今、だからこそ伝えたい

2011年5月9日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

泣ける

幸せ

「恋する女たち」などの作品で知られる大森一樹監督が、お笑いコンビのオリエンタルラジオ、福田沙紀を主演に迎えて描く、群像劇。

東北人の気質は、質実剛健、素朴に無骨だという。多くを語らず、大事な言葉を丁寧に、簡潔に伝えることを是とする。穏やかな物腰の中に、燃え盛る情熱が見え隠れする。極めて一般的な意識をもってすれば、これに尽きると思う。

本作の舞台は、東北は青森県。作り手もまた、この作品を東北人気質の重ね合わせるように描こうとしたのだろうか。観客の想像力に委ねるような雰囲気重視の映像や、フェードアウトなどの余韻作りを巧みに拒絶した世界観。ここに見えてくるのは、伝えるべき熱き思いや暖かさを、素朴に、率直に主張しようとする無骨さと、純粋さ。その裏に見える優しき眼差しが、嬉しい。

撮影時には、現在東北地方が置かれている状況は全く想定できなかっただろう。しかし、まるで現状へと照らし合わせたように本作の軸となっているのは「力強く、支えあう人と人の絆」である。

言葉にするのは少々気恥ずかしくなるような、熱いテーマとなっているが、そこはキャスティングの妙。演技経験がそれほど多くない「オリエンタルラジオ」両者の力の抜けた魅力と、芯の強い親近感溢れる女性を演じさせたら右に出るもののいない福田沙紀の飾らない輝きが見事に溶け合い、劇的な人間の触れ合いを現実味を帯びたものに彩っている。

「大森食堂が舞台だから、受けてみました」と語る大森監督の軽快な指揮もまた、観客が抱え込んだ日々の緊張を柔らかくほぐしていく。気持ち良い開放感を生み出す、貴重な原動力だ。

本作の収益の一部は、東北地方に寄付されるという。観客はほっこりと暖かい希望に心満たされて、おまけに東北地方の復興にも貢献できる。こんな幸せな義援活動なら、快く手を貸してあげたくなる。今こそ、観たい一本だ。

ダックス奮闘{ふんとう}