「【79.0】アンダルシア 女神の報復 映画レビュー」アンダルシア 女神の報復 honeyさんの映画レビュー(感想・評価)
【79.0】アンダルシア 女神の報復 映画レビュー
作品の完成度
2011年公開の映画『アンダルシア 女神の報復』は、織田裕二演じる外交官・黒田康作を主人公としたフジテレビの「黒田康作シリーズ」の劇場版第二弾。スペインのアンダルシア地方を舞台に、日本人投資家の死を巡る国際的な陰謀と、それに立ち向かう黒田の姿を描く。
本作は、前作『アマルフィ 女神の報酬』(2009)と同様に、国際的なスケール感とサスペンス要素を兼ね備えた作品。しかし、ストーリーの展開は前作以上に複雑さを増し、様々な登場人物の思惑が絡み合う。脚本は複数の要素を盛り込みすぎた感があり、事件の真相に至る過程がやや難解。特に、国際的な金融犯罪と日本の政治家による汚職という二つの大きなテーマが交錯する点が、物語を冗長にしている。また、黒田のキャラクター造形も前作に比べてややぶれが見られ、本来の外交官としての冷静沈着さよりも、感情的な行動が目立つ場面も散見される。
演出面では、スペインという異国情緒あふれるロケーションを最大限に活かした映像美が特筆すべき点。アンダルシアの美しい街並みや壮大な自然が、物語の雰囲気を一層引き立てている。しかし、アクションシーンの描写は、ハリウッド映画のような派手さには欠け、全体的に抑え気味。そのため、サスペンスとしての緊迫感や、アクション映画としての爽快感は今ひとつ。
全体として、豪華なキャストとロケーションを活かしきれていない印象。ストーリーの複雑さやキャラクターの描き方の不徹底さから、作品の完成度は高いとは言えず、多くの観客が抱いたであろう期待を完全に満たすには至らなかった。
監督・演出・編集
監督は西谷弘。テレビドラマ『ガリレオ』シリーズや『昼顔』など、多くのヒット作を手がけてきたベテラン。本作でも、ヨーロッパの美しい風景を巧みに捉え、ロケ地の魅力を引き出す手腕は健在。しかし、物語の展開が複雑なため、観客をスムーズに物語に引き込むためのテンポ感や緩急のつけ方は今ひとつ。編集も、様々なシーンを細かく繋ぎ合わせているため、全体として散漫な印象を与えている。特に、終盤の真相解明に至るシークエンスは、説明的な台詞が多用され、映像による語りが不足しているため、観客の理解を阻害している。
キャスティング・役者の演技
* 織田裕二(黒田康作)
外務省の外交官。冷静沈着で正義感に溢れるが、時に感情的な行動も辞さない。前作に引き続き、主人公・黒田康作を演じる。織田は、このシリーズを通じて、これまでの熱血漢な役柄とは異なる、クールで知的なキャラクターを体現しようとしている。しかし、本作では、感情的な葛藤や過去の出来事に対するトラウマが強調され、キャラクターが不安定に見える場面も。彼の演技は、時折見せる鋭い眼差しや、緊迫した状況下での冷静な判断力を表現しようと試みるものの、物語の展開に振り回されている印象。特に、感情を爆発させるシーンでは、前作までの彼の演技とは異なる側面を見せているが、キャラクターの一貫性を損なっている感は否めない。
* 伊藤英明(神足誠)
スペインで事件を捜査するインターポール捜査官。黒田と行動を共にする。伊藤は、黒田とは対照的な、情熱的で正義感に燃える役柄を好演。英語とスペイン語を流暢に操り、国際的な捜査官としての説得力を持たせている。彼の演技は、黒田との間に生まれる信頼関係や、事件に対する熱意を丁寧に表現しており、物語に深みを与えている。特に、アクションシーンでの身体能力の高さは、役柄に説得力を持たせている。
* 黒木メイサ(新藤結花)
謎のフリージャーナリスト。事件の鍵を握る人物。黒木は、クールでミステリアスなキャラクターを演じ、物語にサスペンス要素を加えている。彼女の表情は常に読み取ることが難しく、観客を飽きさせない。しかし、彼女の役柄が持つ過去や動機が十分に掘り下げられていないため、物語における存在感が薄くなってしまった感は否めない。
* 福山雅治(佐伯章悟)
日本人の投資家。スペインで遺体として発見される。福山は、回想シーンや写真での出演。彼の存在は物語の出発点であり、その死が物語全体を動かす重要な鍵となる。少ない出演時間ながらも、彼が演じた人物の過去や性格が観客に伝わるような、説得力のある演技を見せている。
脚本・ストーリー
脚本は真保裕一。原作小説は存在せず、映画のためのオリジナル脚本。ストーリーは、スペインで起きた日本人投資家殺害事件を発端に、日本の政界を巻き込む巨大な陰謀へと発展していく。金融犯罪や汚職といった社会派のテーマを扱っている点は評価できるが、複数のプロットが複雑に絡み合い、物語が散漫になっている。特に、結末のどんでん返しは、それまでの伏線が十分に活かされていないため、唐突な印象。登場人物の行動原理や感情の動きも、深掘りされないまま展開が進むため、観客が感情移入しにくい。
映像・美術衣装
スペインのアンダルシア地方でのロケ撮影は、本作最大の魅力。セビリア、ロンダ、グラナダなど、歴史的な街並みや雄大な自然が、まるで観光映画のように美しく切り取られている。映像は、明るい日差しと影のコントラストを活かし、サスペンスの雰囲気を高めている。美術は、スペインの街並みや建物が持つ異国情緒を忠実に再現。衣装も、黒田のスーツスタイルをはじめ、各登場人物の個性を反映したものが選ばれている。
音楽
音楽は、フジテレビのドラマ『昼顔』や『ガリレオ』シリーズなどを手掛ける菅野祐悟が担当。主題歌は存在しない。劇伴は、物語の緊迫感を煽るようなオーケストラサウンドが中心。スペインの民族音楽を想起させるような楽曲も用いられ、ロケーションと物語の世界観を繋いでいる。
受賞・ノミネート
本作は、アカデミー賞や主要な映画祭での受賞・ノミネートは確認されていない。
作品
監督 110.5×0.715 79.0
編集
主演 B8×3
助演 B8
脚本・ストーリー B+7.5×7
撮影・映像 A9
美術・衣装 A9
音楽 B8