「ふわふわ、つまみ食い」アンダルシア 女神の報復 ダックス奮闘{ふんとう}さんの映画レビュー(感想・評価)
ふわふわ、つまみ食い
「容疑者Xの献身」を演出したことで知られる西谷弘監督が、前作「アマルフィ」に引き続き織田裕二を主演に迎えて描く、サスペンス作品。
本作の関係者が、某雑誌の取材でこのように話している。「やっぱり、黒田康作にも笑いが欲しいと思った。そこで、コーヒーのネタを仕込んだんですね。飲もうと思っても、なかなかタイミングが合わずに黒田が四苦八苦してしまうと。」なるほど、確かにそんなネタは存在した。ちょっと笑えた。
だが、これは余りに「小」ネタだ。言われなければ分からない。「笑いなさいよ」と言われても、これは・・・不親切というものだろう。
謎の外交官、黒田康作の活躍を描くサスペンス映画第二弾となる本作。悲しいまでに不自然に登場した「とある豪華俳優」が犯人だろうと容易に推理できてしまった前作の弱さと比較すれば、物語は二転三転する巧妙な展開が用意され、観客を謎解きの楽しさへと誘う力を持った。
前作では形になっていなかった織田の男臭いダンディズムが画面に充満し、ワインにポーカーが不思議と似合う異国情緒が魅力的な空間となっている。
が、どうにも食い足りない。スペインという荒涼の地がもつ荒々しさ、熱、そして孤独感を十分に物語への味付けにするには、余りに余所者の観光巡りの如き遠景の積み重ね。フラメンコに、闘牛。折角資金をつぎ込んでロケを行っているのだから、もっと深く、深くスペインの裏の顔をつついて描く貪欲さが欲しい。
ストーリーにも、黒田康作の華麗な美しさと聡明さを描くべき世界のはずなのに、何やら陳腐なトリックで死んだ真似してみたり、二人の美男美女のお膳立てに回ってみたり。これでは、織田も必要以上にしかめ面になるのも致し方ない。誰を軸に物語を回すべきか作り手は理解できていない印象を受ける。
風景をちょいとつまみ、織田をちょいとつまみでは重厚なサスペンス、娯楽映画として確固たる存在感を打ち出すには脆弱だろう。
メインの見所を見出せないまま、自然と生まれる中途半端な浮遊感を観客に露呈してしまった感が否めない1本。娯楽作として提示するならば、覚悟を持って黒田様独壇場にするくらいの悪乗りが必要になるのではなかろうか。