「逃避行というムチャを承知の御伽噺」スリーデイズ 全竜さんの映画レビュー(感想・評価)
逃避行というムチャを承知の御伽噺
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法廷で妻の無実の証明が不可能だと解るや否や、「だったら脱獄するまでの事」と開き直る危うさは、在りし日の立川談志師匠が論じた“人間の業の肯定”に通ずる狂気を感じ、感慨深かった。
違法パスポートや拳銃、鍵etc.あらゆる手段を用いて牢抜けを目論む旦那の執念は、正義や真実なぞお構いなしに突き進む。
死を覚悟した無謀な了見は緻密でもあり、大胆でもある。
9.11以降、監視網がナーバスになってるアメリカじゃあ、そうやすやす脱出できるワケがない。
ムチャを承知とする御伽噺とも云える。
テーマの夫婦愛というより利己的すら思える逃避行の極みにもかかわらず、さほど嫌悪感を持たなかったのは、幼い愛息の存在に尽きるだろう。
一家団欒平和に暮らしたい願いのためなら、どんな危険に遭っても飛び込む度胸は、渦中の妻よりも無垢な子供を守るためだからこそ成立する理論なのかもしれない。
妻を正当化するべきなら、無実であることをもっと客にアピールしないと説得力は弱いなぁと後味の悪さにふと感じた。
しかし、あの中途半端な幸せを匂わすサゲが、逆に世界観にリアリティを加える効果だったとも思える。
元ネタはフランス映画で、元祖はもっとドライな切り口ではと察するが、危機的状況に追い込まれる毎に、ワイルドな狂気を加速させて、本性をさらけ出すラッセル・クロウの表情は純粋に素晴らしい。
彼のリアクション芸が、今作の個性に直結しているので、観て損は無い映画やと思う。
最後に短歌を一首
『愛信じ 網を破りて 越える檻 長旅目指し 取り戻す鍵』
by全竜
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