軽蔑 : 映画評論・批評
2011年5月31日更新
2011年6月4日より角川シネマ新宿ほかにてロードショー
「男と女は、五分と五分」のフレーズが映画では響かず
「ヴァイブレータ」ほか文芸作品で際立った手腕を見せる廣木隆一が、中上健次の遺作「軽蔑」に挑んだ。中上健次は、紀州サーガと呼ばれる新宮の<路地>をベースにした豊饒な物語世界を自ら封印し、最後の吐息のような、この美しい純愛小説を物した。
廣木は、新宿・歌舞伎町でトラブルを起こしたチンピラ・カズ(高良健吾)と、彼が惚れたポールダンサー・真知子(鈴木杏)との逃避行を疾走感あふれるタッチで追う。辿り着いたカズの故郷の撮影場所として新宮を選んだのは中上へのオマージュでもあろう。
しかし、地元の資産家の御曹司で万事が親掛かりである甘ったれのカズが賭博で借金を重ね、真知子を道連れに、ひたすら転落していく軌跡に、見る者は切迫したシンパシーを重ね合わせることはむずかしい。
たとえば、原作であれほど魂を震わせるように響いていた「男と女は、五分と五分」という真知子の痛切な独白が、映画では、リアルな情動として刻印されることはなく、微妙に空転している印象すら受けるのだ。本作において、廣木はそのトレードマークともいえる長回しのロングショットで対象を見つめるスタイルに固執し過ぎ、それゆえに愚かしさにまみれた恋人たちの、その寄る辺なき裸形の魂が相寄る瞬間をとらえそこなっているように思える。鈴木杏が肢体を惜しげもなくさらして熱演しているだけに惜しまれる。
(高崎俊夫)