「観せる、ために」僕たちは世界を変えることができない。 But, We wanna build a school in Cambodia. ダックス奮闘{ふんとう}さんの映画レビュー(感想・評価)
観せる、ために
「同じ月を見ている」などの作品で知られる深作健太監督が、向井理を主演に迎えて描く、青春群像劇。
ノンノ、アンアン、MORE・・・。様々な現代を代表する女性誌に登場し、読者の目を釘付けにしている人気俳優、向井理が満を持しての映画主演デビューである。観客層を見てみても、見事なまでに女性の割合が高い、高い。
「ゲゲゲの女房」や「パラダイス・キス」でも、主役を完全に喰ってみせてきた演技力と存在感に、期待と憧れの眼差しは熱いようだ。
さて、本作である。ありきたりの毎日に欲求不満を抱えていた医学生が、ふとしたきっかけからカンボジアに屋根のある学校を建てるまでを描く物語。最近では下火になりつつある「自分探し」作品を連想させるが、いざ蓋を開けてみると、その荒々しくも真っ直ぐにカンボジアという国を見つめる視線が強く打ち出されているのが興味深い。
エイズ、HIV、地雷の恐怖。国際的に見ても発展途上の国家として数えられているカンボジアの辿ってきた歴史、課題、そして未来を手持ちカメラを振り回し、役者が現地で直面する困惑、関心をそのまま掬い上げるように作られている。
もちろん、作り手も本作を観に来てくれる多くの客がファッショナブルな女性陣であることを重々理解しているので、その部分の配慮は成されているが、それでも扱うテーマは深く、重い。
そこで動き出すのが、向井をはじめとするキラキラ輝く若手俳優陣。シリアスな問題に観客が関心を無くしそうな瞬間を見計らって、イケメン俳優達に踊らせ、脱がせ、バスケさせ。「人に、観てもらう」という視点をきちんと考えた作り方もしっかり働き、最後まで笑顔と憧れを失う事無くストレートな感動物語を追いかけていける。
中でも、やはりの俺様、向井様。美しく魅せる笑顔に、鍛えられた体。低い声で、甘い猫なで声。もう、女性は完全にその魅力にノックアウトだ。それで、まさかのクラブでダンス。好きな女性の彼氏います発言に「・・いつからあ?」とふにゃけた声。「可愛いぜ・・」向井をいかに描けば良いか作り手は試行錯誤を重ねたのだろう。見事の一言に尽きる。
俳優のもつ個性と輝きを無駄なくスクリーンにぶちまけるサービスと、社会派としての硬質な語り口。その両輪で観客を楽しませてくれる、良心的な佳作として評価したい一本だ。