「ドニー・イェンの才能と映画の出来は別もの」イップ・マン 葉問 うそつきカモメさんの映画レビュー(感想・評価)
ドニー・イェンの才能と映画の出来は別もの
主演のドニー・イェンのアクション・スキルと、見るものを引き付ける魅力だけで、90分間もつかということですね。かつてアントニオ猪木はモップが相手でも名勝負を演じて見せると言われましたが、ドニー・イェンは、それを超えるほどの才能の持ち主でしょう。
だからって、映画としての出来が良くなるかというのは別問題で、特に大きな障害は悪役に日本軍を設定していることでしょう。香港映画として公開されたのか、詳しい背景は知りませんが、続編がたくさん製作されたことからかなりヒットしたであろうことは想像できます。
話が面白ければ、歴史的な事実がどうかというのは二の次だろうと思います。そのことは百も承知。それにしても、どうにも受け付けない演出があって、それが中国の文化なのかと思います。
この手の体術アクション映画は、どうしても銃に勝てない大原則があって、それをどう扱うかが映画におけるひとつのポリシーになります。「プロジェクトA」では、徹底的にジャッキーのアクションにフィーチャーして、銃火器の使用は忘れさせてくれました。本当にケガをしている痛さを見せて、共感を得たのです。「レイダース」では、ハリソン・フォードが強そうな剣術つかいを、眉をひそめながらピストルで撃ち倒し、体術はオプションの一つに過ぎないことを映画の中で示しました。
この映画でもイップマンがいかに強い男かということをいやと言うほど見せてくれますが、そのメインの表現は誇張に次ぐ誇張。相手を強そうに描くことは基本的にありません。そこに、日本人が好む「勝てそうにない相手に挑む」という要素は薄く、高潔で、魅力に乏しいとっつきにくい主人公が出来上がります。必然的に、悪役は卑劣で、憎たらしく、倒されて当然という単純な図式のストーリーになり、これでアクションが凡庸なら見る価値もない映画に成り下がってしまいます。
この映画では強い男が権力も全掌握しているという価値観がまかり通っていますが、そういう民族性というか、文化的背景というか、どうにも私にとっては辛過ぎる味付けで受け付けませんでした。
2018.3.22