「囲碁映画」ブラック・スワン 小二郎さんの映画レビュー(感想・評価)
囲碁映画
この映画、『イヴの総て』『赤い靴』『愛と喝采の日々』といった昔の名作から、エピソード・登場人物などを抽出して構成されている。
「こっそり物真似」とか「うっとりオマージュ」といったレベルではなく、くっきりはっきり引用している。
そんな昔のモノを持ち出してるにもかかわらず、それを上手く組合わせてショッキングに作り替え、現代の人を驚かす映画に仕立てた手腕は大したもんだと思うけれど。
持ち出してきてる割には、昔の作品への愛情は1ミリも感じられないという不思議さも同時に感じる(それらのファンとしては若干イラっとする)。
『赤い靴』『愛と喝采の日々』の監督たちが、セリフのかわりにバレエシーンを入れて、セリフ以上の感情表現をしてきたというのに(そのために大変な努力を払ってきたというのに)、本作ではバレエシーンにわざわざセリフを重ねるダサさ、安易さ。
ダーレン監督、バレエに1ミリも興味が無いんだろうなあと思う。
(この映画、別にバレエ映画じゃないんだから、そこんとこ怒るのは間違ってるのは重々承知だけど。)
ただ単に「白鳥の湖」の白と黒(対立するイメージ)を象徴的に使いたかっただけなんだろうなあと思う。
白と黒であれば、別に「白鳥の湖」じゃなくても、「オセロ」とか「囲碁」とかでも良かったのにねー。と、バレエ好きとしては憎まれ口の一つも叩きたくなる。
悔しかったら「囲碁」で一本撮ってみろよと毒づきたくなったところで、ふと思い出した。
そういえば、ダーレン監督、「囲碁」撮ってたな…と。
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彼のデビュー作『π』では囲碁の白と黒が象徴的に使われている。
『ブラックスワン』って、『π』の囲碁をバレエに置き換えたものだったのかー。
この2本、痛い妄想のあたりなんかソックリだ。
主人公が闇雲に我が道を盲進するあたりも同じだ。
白と黒の対比ではなく、白と黒の混沌を描く。
本作は、昔の名作の再構成ではなく、ある意味『π』のリメイクだったのね。
本作、『赤い靴』などへの愛はゼロだが、『π』への愛はいっぱい詰まっていた。
(つうかダーレンのやってる事って結局『π』の別バージョン、レスラー版とかバレエ版を作ることなのか?とすら思う。『π』の観念的な痛みを、プロレスやバレエでは身体的な痛みとして体現できる。ストイックなダンサーは、うってつけの題材だ。)
バレエ好きとしては「何だこれ?」な映画であったが、ダーレンの中2病炸裂の『π』は好きなので、本作もこれはこれでアリかーと最終的には思った。
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追記:そういう諸々とは別に、ナタリー・ポートマンはすんごく頑張ってたと思う。