「今日の一句『たかがガキ されどガキ行く 夢の旅』」奇跡 全竜さんの映画レビュー(感想・評価)
今日の一句『たかがガキ されどガキ行く 夢の旅』
しっかり者の兄は不器用で哀愁を感じさせる陰を、お調子者の弟はスルリと世渡りを器用にこなす陽をと、漫才では過剰気味だった売りの愛嬌を各々のキャラクターに投影させ、個性をしっかり確立している。
『誰も知らない』で子役の素の人柄を導き出した是枝裕和ならではの演出論が見事に発揮された賜物と云えよう。
また、阿部寛を始めとする是枝組の常連に加え、長澤まさみetc.新規メンバーが揃った豪華でかつ、個性派の大人達が子供達を囲んでいく事で、緩やかな反発力を芽生えさせ、自立への旅へと駆り立てるプロセスを、繊細でありながら大胆に表現していく。
特に、『歩いても歩いても』に引き続いて、トボケた祖母を飄々と演じた樹木希林は、境遇に苦悩する兄弟の憂鬱な気持ちを和らげる貴重な存在感を放ち、笑いを誘う。
シビアな現実を前に否応無しにズル賢く大人へと成長していくそれぞれの一歩一歩が、純粋無垢な幼き夢と対峙させる不思議な御伽噺に仕上がっていて興味深い。
大人達の都合でハメ込まれた社会に対し、適合と反発を織り交ぜながら、自己のアイデンティティを構築させていく子供の進歩を、《旅》に照らし合わせて展開させる創造力は、驚きに似た共感を産ませ、惹き付けていく。
熊本に集合し、いざメインの冒険が始まると、行き当たりばったりの中に出来過ぎた物語軸を感じ、やや冷めてしまった。
良い意味でも悪い意味でも
「こいつらクソガキやな」
って思わせるガキ本来のニクたらしい生意気な部分に欠ける。
あんなに周りに迷惑かけたのに結局、エエ子のまんまなのだ。
旅に大人がすんなり理解してくれる距離感にも疑問は尽きない。
しかし、あの計算高いアドリブ能力こそ今作が描こうとした子供のサバイバル術が象徴されていて、表情がより活き活きしていた気もしたから、小難しく観る事自体、野暮なのである。
自由奔放な人間性+緻密な計算×(応酬+共存)=面白味
は、漫才でも映画でも当てはまる方程式なのかもしれない。
いや、人生におけるテーマとも云えよう。
どんなに辛い人生でもオモロいオチで決着が付けれたら、幸福なんやけどな…。
ボヤキながら駅で独り佇む私は、「富士山噴火して、全部チャラなったらエエねん」と前田の兄貴のように青空を見上げた。
まだまだガキのまんまやなと実感した帰路に短歌を一首。
『擦れ違ふ 風を奇跡と 云ふのなら 大人になるのは 奇跡なんかな?』 by全竜