劇場公開日 2011年4月2日

  • 予告編を見る

「退屈な映像だなぁと思いつつ、なんだかしみじみ心にしみるものを感じてしまう。そして見事に監督の術中に落ちているのです。」SOMEWHERE 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0退屈な映像だなぁと思いつつ、なんだかしみじみ心にしみるものを感じてしまう。そして見事に監督の術中に落ちているのです。

2011年4月4日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

 父と娘の関係を綴ったドラマです。
 個性的なキャラクターやドラマチックな筋立てに頼ることがなく、さりげないエピソードを重ねて、父娘の心模様を描いて行く手法は、見る人によって評価が極端に別れるのではないかと思います。
 特に登場人物を、じっと観察するかのような長回しのカメラワークは、冗長にも感じられて、辛く感じるときもありました。しかし、不思議と眠気も起きません。
 冗長のなかにも、父と娘が久々に過ごした時間を、見るものがそっと共有しているかのような実感を感じさせてくれるからです。とっても退屈な映像のなかに、でもなんでこんなシーンを長々と描くのか、その気持ちは痛いほどに伝わってくるという不思議な感覚に包まれました。「孤独」とはかない「幸福」の狭間で揺れる主人公の姿が、切なかったです。
 ファザーコンプレックスを抱いたまま大人になってしまった人や、娘とどう向き合っていいか分からないという世のお父さんには、クグッと心を鷲づかみされるような作品となることでしょう。

 また、主人公がハリウッドの大物映画スターという設定になっていて、セレブな暮らしぶりを当たり前の日常のように描かれているのも興味深いところです。一般の大衆にとっては縁遠い高級ホテルでのプライベートをのぞき見しているような錯覚に陥りました。
 それもそのはずで、ソフィア監督自身が、巨匠コッポラ監督の娘として生まれて、少女時代に切実にしてきたことがそのまま映像になったような作品。そして2児の母になった今、家族に抱いている思いが、本作に投影されていることは想像に難くないことでしょう。

 さて、冒頭映し出されるのはハリウッドの映画スターであるジョニー・マルコが、黒いフェラーリを駆って、同じ道をくどいほどに周回するシーン。
 実は、このシーン何となくマルコの日常の投影ではないかと思えました。一見、高級車で、ターボ音を掻き立てながらスピードを上げ、スリルを味わっていても、傍目には周回しているだけとしか見えません。つまりは堂々巡り。なんの生産性もない点で、シャトー・モーマントで怠惰な生活を送っているところを色濃く暗示させるオープニングではなかったかと感じました。ちなみにこのホテル、実際に有名人御用達として、ハリウッドに実在します。
 左手を負傷した、ジョニーは俳優業も休んで、夜ごとパーティーで酔いつぶれ、女と馬鹿騒ぎ。一見華やかに見えるけれど、その表情にはありありと倦怠が浮かんでいました。 そんなとき、離婚した妻と暮らしている11歳の娘クレオを数日預かることになったのです。その日常は激変していくのでした。娘がやってきても、女好きの日常を覗わせるように、複数の女性からの誘惑がジョニーの元に押しかけます。しかし、それを振り切ってまで、ジョニーはクレオとの時間を大切に過ごそうとするのでした。
 娘との久々の時間。テレビゲームに昂じたり、小説の話で盛り上がったり、疲れたら、肩を寄せ合ってうたた寝をしたり。そして朝は、娘の手作りの朝食で起こされる生活。それはごく普通の家庭の父娘が過ごすのと代わり映えのないものでした。
 けれども、ずっと暮らしたいと突然泣き出す娘に、ジョニーは「ゴメン」としか言えなかったのです。そんな自分に、普段の生活の空虚さを痛感し、かけがえのない何かに気がつくのです。

 映画のなかに閉じ込められたふたりの親密な時間。それが父と娘のこれからに何をもたらすのか、あからさまに描かれてはいません。
 淡々とした描写で、退屈な映像だなぁと思いつつ、見終わったとき、なんだかしみじみ心にしみるものを感じてしまうのです。気がつくと、見事に監督の術中に落ちている自分に驚いてしまいます。

 思い返せば、時間の緩急の付け方や映像の明暗の手繰り方は巧みだったのかもしれません。娘がやってくる前の冒頭のシーンで、双子の出張ダンサーがポールダンスをジョニー独りに見せるところでは、うんざりするほど単調で長いのです。
 でもこれを演出が下手と決めつける前に、意図的だとしたらどうでしょう。この冗長さは、怠惰に暮らすジョニーの虚ろな疲れを表しているのではないかともとれるのではないでしょうか。恐らく監督は、ジョニーの感覚を観客にも共有させようとして、こんな意味もなく長いシーンを挿入したのではないだろうかと推論したとき、作品の印象がガラリと変わってしまいました。

 果たして、ホテルをチェックアウトしたジョニーが、フェラーリーを荒野に乗り捨てて「何処(SOMEWHERE)」へ向かって歩き始めたのでしょうか。台詞はなかったものの、ドラマチックなラストでした。

 クレオ役のエル・ファニングが、監督の狙い通りのキャスト。本当に可憐で妖精のようです。姉のダコダがおませな可愛さを感じたものです。エルはとてもナイーブで、誰もが守ってあげたいという美少女なんです。彼女なら、ジョニーが女を遠ざけても、娘にメロメロになってしまう気持ちがよく分かりました。

流山の小地蔵