「骨格は、鉄筋でした」マチェーテ ダックス奮闘{ふんとう}さんの映画レビュー(感想・評価)
骨格は、鉄筋でした
「プレデターズ」などの作品で知られるロバート・ロドリゲス監督が、スティーブン・セガール、ジェシカ・アルバといった俳優陣を結集して描く、アクション作品。
恥ずかしながら、その昔「阿部サダヲ」という俳優を食わず嫌いしていた。それまで演技を拝見したことがないくせに「サダヲ」という何とも危険な香りのする響きに対して、勝手に嫌悪感。現在はその陰陽使い分ける高い演技力に惚れこんでいるが、やはり見た目だけで判断するのは危険である。
本作も、まさに食わず嫌いから手を出せずにいた一本である。ロバート・ロドリゲスというB級映画の代名詞、R指定を前面に押し出した残虐性、そして威圧感で満ち満ちた主人公。まさに、迂闊に踏み込んではいけない闇を感じてしまう。しかし、ここではっきり言おう。私の先入観は、間違っていた。
確かに、これでもかとぶち込まれた血で血を洗う戦慄の殺戮描写は目を覆わざるを得ない。しかし、その強烈な暴力性の裏で綿密に、丁寧に編み込まれた物語展開と、決して勢いだけでは作れない見事なユーモア、無駄の無い台詞の組み立てには、心から驚かされる。
宗教、国境、移民、そして権力への不信感。一歩間違えば高尚なドキュメンタリー展開に持ち込まれて、観客を眠りに誘うような厄介、かつ複雑なテーマが、一本の作品に凝縮されている。それでも大いに笑わせてくれるのは、きちんと観客の理解、認識を待って、分かり易く噛み砕く高度な言葉の力を的確に使いこなしているから。
特に、悪徳議員を演じたデニーロのくだりには、アメリカに限らず全世界に共通する怒りや憤りを、吹き出す馬鹿馬鹿しさにくるんで描き出す。さすがの毒々しさと憎みきれない愛らしさ。キャスティングもまた妙である。
突貫工事で、想像力と勢いのみを糧に作り上げた脆弱なB級作品の外見である。しかし、いざ中を見てみれば、骨格はしっかりと設計図通りに組み立てられた鉄筋の芸術。食わず嫌いで観賞しておられない方がいたら、まずは目を向けて欲しい。きっとその精巧な完成品に舌を、巻く。