「刹那の交点に煌めく燐光、それが『めぐりあい宇宙』」機動戦士ガンダムIII めぐりあい宇宙(そら)編 因果さんの映画レビュー(感想・評価)
刹那の交点に煌めく燐光、それが『めぐりあい宇宙』
あまりにも圧倒的な戦争絵巻だった。
1〜2も無論名作であったことに異論の余地はないが、その集大成たる本作の完成度はその中でも白眉だ。のっぴきならない戦争のリアリズムと混線を極める人間ドラマという2つの系列が、出会い、別れ、そしてまためぐりあう。
幼稚な戦士アムロ・レイと冷徹な策士シャア・アズナブルという対立構造はララァ・スンの死を奇貨に少しずつ逆転の兆しを見せ始める。
目的のためであれば親友ガルマ・ザビの謀殺をも厭わなかったシャアは、ララァを実質的に殺害したアムロへの私怨に燃え上がり、執拗に彼をつけ狙う。他方、自分の優秀さを示すためにホワイトベースからガンダムもろとも「家出」を試みるほど幼かったはずのアムロは、いつしか戦争という不条理を真正面から受け止める度量を備え、ある意味で戦争の産物である「ホワイトベースの同胞」らに自らのアイデンティティを賭けられるまでに精神的成長を遂げる。
ア・バオア・クーを舞台としたアムロとシャアの激戦は本作きっての見どころだ。ジオンの新兵器ジオングを駆るシャアは、初搭乗とは思えぬほどの好戦ぶりをみせるものの、ニュータイプとしての才能を急速に開花させたアムロに苦戦を強いられる。頭部以外を破壊されたジオングは物陰に隠れガンダム征伐を狙うが、自身の実力に驕る悪癖を既に克服していたアムロはシャアの作戦を冷静に読み、ガンダムを自動操縦に切り替え機体を降りる。
パッと天井の遮蔽物が晴れたところでガンダムが天に向かってビームガンを放つ。同時にジオングのビームが降り注ぎ、両機相打ち。これがアニメ史に燦然と輝く「ラストシューティング」だ。
以後はアムロとシャアによる白兵戦が展開されるが、ふと転がり込んだ一室に掲げてあったレイピアでフェンシングという流れになるあたりが本当に富野らしい。しかしフェンシングでもアムロがシャアに実質的な勝利を収める。シャアは自身を引き止める実の妹セイラ・マスに「いい女になるのだな。アムロ君が呼んでいる」と言い残し、戦火の中に消えていく。
遂に崩壊を始めたア・バオア・クー。ホワイトベースもまたその崩壊に巻き込まれ、乗組員たちは小さな脱出艦で戦線を離脱する。取り残されたアムロは辛うじて生きていたガンダムのパーツを駆使して命辛々ア・バオア・クーを脱出する。ブライト、セイラ、フラウ、カイ、ミライといったホワイトベースの仲間たちが自身の帰還に湧くさまを見て、アムロは涙ぐむ。
「ごめんよ、まだぼくには帰れるところがあるんだ。こんなに嬉しいことはない」。
親友も最愛の女も実の妹さえも失いまったくの孤独に陥ってしまったシャアと、孤独の中を戦い抜きながら最終的にホワイトベースの面々をかけがえのない仲間として認識するに至ったアムロ。
二人が描き出す真逆の直線。その刹那の交点に煌めいた燐光が本作『めぐりあい宇宙』なのだと結論しよう。