「一歩引く間で納得させる負の男の美学」あぜ道のダンディ 全竜さんの映画レビュー(感想・評価)
一歩引く間で納得させる負の男の美学
弱音をこらえてもやっぱりグチグチ零してしまう光石研の不器用な人生は情けなくもあり、逆に哀愁を誘う魅力にも成っている。
また、そんな面倒くさい彼に嫌な顔せず付き合い、話を聞いてくれる唯一の親友・田口トモロヲの優しい存在感が印象的で、満身創痍の彼の心中から痛々しさを抜き取り、ほのぼのとさせる不思議な空間創りに貢献している。
父親との接し方に戸惑う子供達側の観点も丁寧に描き、双方のフォローを忘れない監督の繊細さを感じた。
負け組の人々を肯定する世界観は、『川の底からこんにちは』に続いて、力強く、そして、バカバカしく賛歌しているが、最大の違いは、背負った“負”を躊躇なく開き直ってる満島ひかりに対し、光石研は我慢しようと懸命にこらえるもどかしさが美学として掲げられている点であろう。
故に、サバサバした脱力系のやり取りが魅力だった石井ワールドなのに、セリフのほとんどが説教臭くなってしまったのが大きな難点である。
しかし、その概念は、父親より息子の口調の方に強く感じたのが興味深く、途中にキチンとギャグを注入放り込んで、説教臭さを緩和しようとした姿勢は好感が持てたので、それはそれで面白かったのかもしれない。
一歩前に出るインパクトで笑わせるのではなく、こらえて一歩引いた時の間で笑わせる世界は、賛否分かれるところだが、それで2時間弱は長かったかな。
とりあえず、主人公のように居酒屋で1杯くつろぎたい心情のまま最後に短歌を一首
『不器用に 孤独を気取る 男道(ダンディズム) 愛は残して 影を遺さず』
by全竜
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