「面白い人物造形だが推理映画に流れてしまい人間ドラマが希薄」蛇のひと 徒然草枕さんの映画レビュー(感想・評価)
面白い人物造形だが推理映画に流れてしまい人間ドラマが希薄
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義太夫の大師匠が二号の女性に産ませた子供が、天賦の語りの才で逆境を切り抜けると同時に、時には自在に相手を左右でき、自殺にさえ追い込めるという人物造形が面白い。
そのある意味の天才が西島演じる会社の営業マン・今西で、突然失踪してしまうという点もまた、映画の導入部として十分惹きつける。
主人公はその事務補助を務める陽子(永作)で、社命で失踪した社員の行方を探すというのを横軸のストーリーとし、探索過程で徐々に彼の天才ぶりが縦軸として明らかになっていく構成。
さまざまな知人たちに今西が軽くアドバイスすると、人々はそのコトバ通りに重大な決断をしていく。
その根源にあるのが子供時代、実の父親の下での徒弟奉公をしている時に、正妻の子から酷いイジメに遭い、最後にその天才で復讐を果たすという体験だ。
そうした履歴を辿った陽子は、今西の天才ぶりが発揮されると、人々はほとんど不幸になっていくことに気づく。恐らくその天才は、性格の邪な部分=蛇が浮上する時に発揮されるからだということ、そして蛇が浮上するのは彼が深く惹きつけられる人物が登場した時であることにも彼女は気づく。ならば陽子に興味津々だった彼が彼女の眼前に現れないとも限らない。
案の定、陽子が自分の恋人の家を訪ねると、やはり今西がいた、さてその結末やいかに――という最後の展開まで興味を惹きつけて離さない。
最後の最後には、何やら彼女と彼が付き合っていくのではと仄めかしていくのだが、その部分をちょっと膨らませて、濃密な人間ドラマに仕立ててくれれば深みのある映画になっただろうに、単なる推理作品にとどまったのは勿体ない気がする。
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