「別れても戻る人」毎日かあさん Takehiroさんの映画レビュー(感想・評価)
別れても戻る人
『毎日かあさん』(2011)
dTVであと9日の放映というので選択。東日本大震災の前後に上映が重なった作品だったのか。
当時は、主演の永瀬正敏と小泉今日子が元夫婦なのに共演するという事だけは、映画の宣伝で、そういう事が許されるのかという複雑な思いから意識した事を思い出す。原作は西原理恵子の毎日新聞に週1で連載されていた漫画で、実話をもとにしているらしい。永瀬と小泉の関係も考えさせるが、小泉などは他の俳優と不倫中なのを開き直っている状態で、悪い意味で奔放になってしまっているが、西原はこの映画で紹介されるであろう通り、死別である。現在は高須クリニックの有名な院長と事実婚状態である。西原のほうも死別が人生に関わっているが、離婚やその後の別の人達との交際が個人の人生を複雑化している。『毎日かあさん』の場合は、離婚やその後の別の人との交際や不倫がテーマではなく、死別した夫との、生きている頃からの経緯と息子と娘との家族の物語である。だがそこにはいくら繰り返しても足らないが、永瀬と小泉が離婚した後で共演したという面が複雑にかすめてくる。妻のほうも漫画家でユニークな日常生活をみせるが、夫のほうはがんの闘病中で、東南アジアなどにいったカメラマンだったような、野性的な破天ら傾向な家族である。夫婦は一般に夫のほうが収入が多く、養っているのだろうが、この夫婦は、夫はがん闘病中でもあるのだろうし、妻は売れっ子の漫画家だから、収入は大きく妻のほうがあり、夫のほうが養われているような状態の珍しいといってよいようなケースだろうが、そこにも愛情がある。妻は夫にも子供たちにも文句をいうような形容をするが、それは愛情からである。西原は女らしい女ではある。野性的ではあるが。夫はアル中傾向で酔っぱらってきたりする。そして突然犬を飼ってきてしまうエピソードがある。妻側の母が正司照枝が演じているが同居している5人家族である。夫が贅沢な料理番組をみながら、この国は残飯で腐ってる。と憤り、ドッグフードを食べる。1500回目の断酒宣言を破って缶ビールを飲むのを妻に見つかる。妻は腐ってるのは国よりお前のほうだろうと思うが、ドッグフードを試しに一緒に食べてみたりした。東南アジアで戦場カメラマンをしたほどの男ががん闘病で妻に養われていた頃の気持ちもどうだっただろうか。それを妻は夫の死後に愛情を込めて漫画にし、映画化されたりしたのだが。妻の4人の奥さん友達たちも時々出てくる。それも面白い。夫はアル中の妄想が出たり、妻に小物と言われると強く怒り出す。「仕事の価値はカネで決まるんじゃねえんだよ!」家出したのだが、どこのホテルに泊まっているかをわざわざ妻に電話したりする。当時夫は、小説を書くのだとしていて、それがなかなか書けず悩んでいた。そのストレスでさらに飲酒する。妄想から家の中を滅茶苦茶にする。「なんだこんな家。お前らみんな俺がいなければいいと思ってんだろう。そうやって俺のことを馬鹿にしてんだろう」さらに家の中を滅茶苦茶にして、妻の漫画に手をかけた途端に止める。妻は腕組みをして夫を冷めた目でみる。これが小泉と永瀬という元夫婦が演じているのが凄いとは思う。そして夫は大量の血を吐いた。
入院する。思えば、小泉が他の俳優と不倫宣言して開き直ったのも、映画で元夫と共演を承諾するという性質にも表れていたのかなとも思う。そのキャスティング側の意図はどうだったのかというのもある。戦場カメラマンでのトラウマから、公園で水鉄砲をしている子供の母親にも公園で怒りだし、吐く。妻は付き添っていたが、「当分、ここにはこれないわ」という、夫は戦場での経験を思い出し泣く。妻は肩を叩く。入退院を繰り返す。最初がんで入退院を繰り返していたのかと思ったが、間違っていたようだ。アル中での入退院の繰り返しだったのだ。調べてしまい、先入観で間違えてしまったが、これだけ大量に飲酒した後で、がんが発覚するのだろう。その前の段階で、妻も我慢の限界がきて、子供たちにも会わせられないと、離婚へと向かう。離婚はしたが、元夫の事は思っていた。放浪の旅に出たのだという。あとかなり細かいが、小学校低学年男児のちんちんがそのまま見えていたのはこの映画ではじめてみた。この立場なら問題にもならないのだろう。離婚しても、元妻と子供たちは元夫がアル中の治療施設に行くと決めると会いに行く。両者の友達のモデルは評論家の勝谷氏なのかも知れないが、治療院での元夫を遠くから眺めて、友人と話す、元妻の複雑な愛情表現は大人の事情だという感じだ。そして元夫に、「酒辞められたらまたうちに置いてやってもいいけど。絶対無理だと思うけど」と元妻ははっきり言って帰る。元妻の父親もアル中で酔ってドブにはまって死に、母娘して配偶者の酒癖に迷惑を被ったそうだ。元夫も、子供たちにぬいぐるみと昆虫の標本のプレゼントを贈ったりしていた。元妻には、「もし本当に君が許してくれるなら、また家族一緒に暮らしたいと思っています」という手紙だった。息子に10円はげが出来ているのを発見し、「何も考えていないようでも、両親の離婚に傷ついていない子供はいない」と考えたが、医者にはただのじゃりっぱげだと深刻に思われなかった。実母に、もっと早く見捨てておけばお互いに苦しまなくても良かったんじゃないかと言われたりした。ここに大事な所がある。愛とは別れられない事・・・。父親を思い、川を渡れば会いにいけるとゴムボートで川を渡って、警官に見つかり追いかけられたエピソードも本当にあったのかどうか、あった。母親の子に対する心配も表現されていた。泣いている間、兄は妹の手を離さなかったのを、心の中で母はほめた。
元夫が住まいに帰ってきた。お互いに復縁したい事情のケースもあるのだった。息子が言う。「もう喧嘩やめたの?長い喧嘩だったね」元妻は言う、アルコール依存症は専門家との協力まで必要な事なのに、私は怠け者だとか文句ばっかり言ってきたと。10年近くアル中と闘い、復縁に向かおうかという矢先に、元夫にがんが発見されたのだった。実話では夫のほうも当時を文章に書き留めていったらしい事が映し出される。節分に雛祭りと夫婦と親子とおばあさんも含めて、家族が集まって楽しく過ごせた。元夫はカメラマンで多くの家族の出来事を、家の中を写真におさめる。
しかし、子供がいなかった、そして離婚した、実際に夫婦だった永瀬と小泉が、演じた子供たち2人と、4人で記念撮影したシーンは複雑な気持ちがした。(西原とジャーナリスト鴨志田氏の二人並んだ写真も出てくる。)映画としては破天荒な関係でもあったが、看病から看取りまで仕上げた漫画家西原と、病床で「ありがとう」と言い残せたジャーナリストとの関係は、2人の子供が出来たというのも含めて、素敵な関係だった。「神様、私に子供をありがとう」。