劇場公開日 2011年8月6日

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一枚のハガキ : 映画評論・批評

2011年8月2日更新

2011年8月6日よりテアトル新宿ほかにてロードショー

戦争の愚かさを訴え、女性の生命力を讃美してきた新藤兼人の集大成

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今年で99歳の新藤兼人監督は、1950年に独立プロの先駈けになった近代映画協会を設立し、世界初の反核映画「原爆の子」や放射能汚染を描く「第五福竜丸」など、大震災の現在にも通じる作品を発表してきた。その新藤監督が人生最後の監督作品と宣言した本作は、人間を破壊する戦争の愚かさを訴え、女性の生命力を讃美する新藤映画の集大成と呼ぶにふさわしい。

戦争末期に召集された中年兵の松山啓太(豊川悦司)は、戦友の森川(六平直政)から一枚のハガキを託される。やがて戦争が終わり、運よく生き残った啓太はハガキを持って、戦死した森川の妻・友子(大竹しのぶ)を訪ねていく。啓太をもてなす友子が抑えていた感情を爆発させるシーンが見せ場。「ふくろう」で試みた演劇的な長回しの手法が異様な緊張感を生み、戦争の不条理を訴える大竹の熱演に胸が痛くなるほど圧倒された。その一方で、友子に横恋慕する吉五郎(大杉漣)と啓太が大喧嘩をするエピソードは戯画的に誇張され、男は戦争で死ぬよりも、女をめぐって争うほうがよほど人間らしいという新藤流のユーモアが笑いを誘う。

啓太と友子が天秤棒で水桶を運ぶ場面では、モスクワ国際映画祭グランプリに輝いたセリフのない映画「裸の島」を想起した。しかし映画やテレビに多くの脚本を提供してきた新藤兼人の到達点ともいえる本作は、言葉の力を信じて思いの丈をぶちまけるようにセリフが多く、その執念と気迫が作品として見事に結実している。

垣井道弘

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