「「手塚治虫の」と入れなければ…」手塚治虫のブッダ 赤い砂漠よ!美しく onosさんの映画レビュー(感想・評価)
「手塚治虫の」と入れなければ…
この作品は3部作の第1部でシッダルタの誕生から家を出るところまでが描かれています。
以下は「手塚治虫の」と銘打っているところから見ての感想ですので、原作と比べての批評が多いです。
原作も史実通りではないフィクションの部分が多い作品ですから、「手塚治虫“原案”」くらいの作品として出していたなら、仏陀やその教えに興味を抱くきっかけには良い作品だと思います。
(それでも「映画作品」としての出来は微妙ですが…)
■ストーリー・シナリオ
改変が目立ちます。演出の為に加えたシナリオとかではなく時系列がぐちゃぐちゃです。
タッタはいつまでも7歳児で逆にシッダルタはあっという間に大人になっていて意味がわかりません。(原作ではシッダルタとミゲーラが愛し合う頃タッタは立派な体格の青年になっていました。)
予告でもありましたチャプラとシッダルタの対決シーンは原作にはないどころか、チャプラが失脚する直前にシッダルタが生まれているので2人は会った事もありません。
他、各エピソードもかなり駆け足で「第2部以降で回想として出てくるのかな?」と思われる部分が何ヶ所かありました。
■キャスト
スッドーダナ王があまりに棒読み過ぎて脱力しました。能役者の大御所の方ですから誰もダメ出しが出来なかったのでしょうか…
吉永小百合さんのナレーションはとても優しく穏やかで、しかし凛としていて素敵でした。ただ推定35歳前後のチャプラの母親の役には少々お歳をめされていたかと思います。
吉岡秀隆さんのシッダルタは沈み込みがちで線の細い雰囲気が出ていて良かったです。堺雅人さんもとてもお上手でした。
メイン以外のキャラクターは本職で実力派の方が多く起用されていて大変満足でした。
■演出
特別心打たれる演出はなかったです。「緊迫の戦闘シーン」「心に突き刺さる・涙を誘う演出」を期待していたのですが…響かなかったです。
■ビジュアル・映像
背景や色彩はとても美しかったです。
ただ、動物や群衆の動きなどは映画作品とは思えない安っぽさで、
これは手塚絵ではない為ですが、手塚治虫の描くディズニー由来の可愛らしい動物のデザインや動きが映像で見られなかったのは本当に残念でなりません。
■音楽
作画に合った重過ぎない綺麗な音楽でした。ですが演出がそれを活かしきれなかった感は否めません。
「未完成な油絵」の様な塗りのポスターを見た時からなんとなく嫌な予感はしていましたがあまりにも酷い出来でした。
原作のファンの方は心底がっかりしますので見に行かれない方がいいです。
原作を読まれた事がない方は「これが手塚治虫のブッダか!」とは思わずに、一つのオリジナル作品として見に行かれるのが良いかと思います。
※印象の「寝られる」は一緒に観に行った手塚作品ファンの母が3度程うつらうつらしていましたので。