トラブル・イン・ハリウッド : 映画評論・批評
2010年8月31日更新
2010年9月4日より渋谷シネマ・アンジェリカにてロードショー
陰るハリウッドの現実を憂う愛情に満ちた挽歌
ハリウッドの舞台裏をシニカルに見せる他愛もないコメディではあるが、一笑に付すことのできないせつなさが漂っている。実在のプロデューサーの回想録を原作に、実際に起きたであろう“すったもんだ”をデフォルメ。ショーン・ペンとブルース・ウィリスというアート系とアクション系を象徴する対照的なスターをそれぞれ本人が演じることで、そこはかとない諧謔(かいぎゃく)と皮肉が生まれてくる。
ロバート・デ・ニーロが扮するのは有力雑誌から映画プロデューサーBEST30にかろうじて選ばれた大物。ペン主演のカンヌ出品作は監督が妙なこだわりを貫いて悪評を買い、撮入間近のウィリスはスター特有の駄々(だだ)をこね始める。別れた妻子に未練を残しつつ、東奔西走し感情を押し殺して事態の修復を試みるプロデューサーの実態。ここには、ロバート・アルトマンがハリウッドの内幕を揶揄(やゆ)した「ザ・プレイヤー」のような毒気は微塵(みじん)もない。
かつてデ・ニーロが、ハリウッド黄金期の大プロデューサーを演じた「ラスト・タイクーン」の雄姿からは隔世の感のある、狼狽(ろうばい)し憔悴(しょうすい)しきった表情。映画の都の栄枯盛衰に思いを馳せ、おかしみを通り越し深い悲哀を感じざるを得ない。20世紀に栄えた文化や芸術が終わろうとしている。監督やスターの無謀や狂気など許されざる時代。これだけのスタッフとキャストを配しながら日本公開まで2年を要したという事実も、夢工場のちょう落を物語る。これは、陰るハリウッドの現実を憂う愛情に満ちた挽歌である。
(清水節)