「悪のりが過ぎて釣りバカを見ている気分になりました。」ステキな金縛り 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)
悪のりが過ぎて釣りバカを見ている気分になりました。
今回は、悪のりが過ぎます。「ザ・マジックアワー」までは、ラストに向けて次々伏線を結びつけて、笑いを誘発する圧倒的なパワーを見せつけたものです。しかし、本作では、主演の西田敏行のキャラクターに頼りきりで、ドタバタ気味。
西田がベタなギャグを連発するとき、どうしても釣りバカ日記のハマちゃんを連想してしまうのは、小地蔵だけでしょうか。
最近はいろんな分野から映画監督に挑戦する人が増えてきました。その中で脚本家から転進した三谷監督は走りといえる監督だと言えるでしょう。本作で既に5作目。でも一番面白かったのは、やっぱり初監督作「ラヂオの時間」でした。
同じことはコメディアンから転進して監督として成功した北野武監督にもいえるでしょう。こちらも初監督作品である「その男、凶暴につき」が一番良かったと思います。
2人とも最初は異分野から参入したので、当初はスタッフや業界関係者の意見を素直に聞いたことでしょう。だから初監督作は完成度を高かめることができたのです。それが、作を重ねるごとに、自信が過信に変わり、自分の思いつきのままに映画を撮るように、エゴを押し出していったのです。北野監督は近年破天荒な作品が続いています。同じように三谷監督の方も、本作では特に身上のサービス精神が暴走気味で、笑いを詰め込み過ぎる傾向があり、見ている方としては食傷気味に感じてしまうのではないでしょうか。
それでも幽霊が裁判の証人になるという、ありえない設定の物語をきちんと納得させるエピソード考案して構築した腕前が見事というほかありません。
小地蔵的には、唯物論の牙城というべき、法曹界のそのまたガチガチの法律バカとしか言えない検事である小佐野を幽霊の証人を認めさせてしまうところが痛快でした。あれなら小地蔵だって、肉体がなくても法廷で証言できそうです(^^ゞ
豪華キャストによる漫画チックなキャラクターが多数登場し、細かい笑い満載の作風はおなじみの三谷調に変わりはありません。ただ今回は、「笑の大学」にあったような社会風刺に乏しく、ベタに笑いを取るシーンが目立って締まりません。もっと登場人物を絞って、硬直した裁判制度や杓子定規な法律家への風刺を効かせていれば、作品的にもう一段突き抜けたおかしみを加えられたことでしょう。
やはりユーモアにまぶしつつ、その底流に現実や社会、人間への鋭い観察を忍ばせるのが劇作家・三谷幸喜の真骨頂であるだけに惜しいところです。
限定された舞台で、カットを割らず撮影するのが得意な三谷監督ですが、本作ではカット割りを多用し、ロケも多いのが特徴です。しかし、台詞回しや演技が大ぶりで、演劇に近い印象がしました。映画を撮っていても三谷監督の基本は舞台人なのですね。
但し演劇じみた演出は、舞台に近い法廷や室内のシーンではよくマッチするものの、ロケでは違和感を感じてしまいました。
演劇では背景というのは、殆どストーリーを語らないのに対して、映画では風景ショットも時として出演者の気持ちを雄弁に物語ることがあります。変化の乏しい法廷劇では、裁判が始まる前のシーンが画面に変化をつける上でも重要です。その辺を単なる背景にしか使っていないところで、映画のルックを小粒にしてしまっているのではないかと思えました。
出演陣はみんな溌剌としていて、三谷作品に出演していることをたっぷり楽しんでいるようにも見えます。なかでもちょっとずっこけ気味の弁護士役をコメディーに演じる主演の深津のボケぶりが魅力的です。加えて堅物検事役の中井と、エミの上司役の阿部寛が、上手く硬軟両面の二面性を併せ持つところを上手く演じていて可笑しかったです。
とにかくリアリズムから遠く離れた設定の本作の場合には、リアルな台詞回しよりも、少し大ぶりな芝居仕立ての演劇風が似合っていると思います。お約束の笑いも感動もあって、監督ならではのサービス精神には、しっかり楽しませてくれました。