劇場公開日 2011年8月27日

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日輪の遺産 : インタビュー

2011年9月6日更新

「日輪の遺産」中村獅童が今、守りたいもの

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敗戦の色濃くなる昭和20年の夏、陸軍が奪取した時価900億円ものマッカーサーの財宝を、3人の軍人と学徒動員の女子中学生20人が戦後の日本復興のために隠匿(いんとく)するという、作家・浅田次郎の初期作品を映画化した「日輪の遺産」(佐々部清監督)が現在公開中だ。これまで他作品でも様々な軍人役を好演してきた中村獅童が、エリート軍人の護衛役を務める歴戦の兵(つわもの)曹長・望月庄造を演じる。日本の未来に向け、大事なものを“守る”ことがテーマの本作。獅童が今、守りたいものとは?(取材・文:編集部、写真:本城典子)

緊張感ある鋭い視線が印象的な軍人として、「男たちの大和 YAMATO」「硫黄島からの手紙」など、これまでも戦争映画へ出演している獅童。本作を含め、それぞれの役を演じる際に共通して意識するのは「姿勢やたたずまい」。「兵隊さんは歩き方や姿勢がいいですよね。今生きている我々とはまったく違う遠いようで近い過去。ただし我々とはたたずまいがまったく違う。しゃべり方も違うし、それは歌舞伎や時代劇を演じるのとはまた別の難しさがあります」という。

そして、実際に戦時中に生きた家族の証言が、軍人役を演じる上で参考となったと明かす。「父はもう亡くなったんですが、僕が生まれたのが遅くて、両親が割と高齢なんです。ですから、当時の写真であったり、父や母が子どものときに過ごしてきた日本の風景や、軍人さんが生きた時代が私生活の会話の中にちらちらと出てきていたんです」。

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本作で演じたのは、“赤鬼さん”と呼ばれた、強面(こわもて)の軍曹・望月庄造。「豪快で力持ちで、内に秘めた優しさを持った男」と分析し、「セリフもたくさん話すわけじゃなかったんで、その男の持っている強さ、強い男だからこその優しさがにじみ出ればと思いました」と役作りについて話す。

森迫永依演じるクラスの級長・久枝をはじめ、学徒動員役の20人の女子中学生と共演するという、希有(けう)な撮影となった。

子役出身で実力派の森迫を「ふだんの佇まいも役になりきっていて、現代っ子なんだろうけど古風な味わいもあってすごく素敵な女優さん」と評する。女子生徒たちとは「アイドルの話をしましたね。嵐がすごい人気だって言っていました(笑)。なんでもおかしがる年頃で、僕が『ウォワーッ』って大声出して荷物を持ち上げるシーンは、カットがかかるたびにキャッキャキャッキャ笑っていましたね。僕はふだん女性の方から怖そうって言われることが多いんで、最初は多分あの子たちもすごく緊張していたんじゃないかな。で、たまにギャーッとやるから、それが役柄に生かされたんじゃないかなと思います。和やかな現場になりました」と、シリアスなトーンの作品とは裏腹に、笑顔の絶えなかった撮影を振り返る。

そんな少女20人との共演は、獅童にとっても貴重な経験となった。撮影が終われば、21世紀の今を生きる、いわゆる“今どきの子”たちでありながらも、役に入ると当時の日本人の少女になりきる20人のひたむきさが、本作を通じて獅童の心に響いたという。

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「現代を生きているあの子たち、当然僕もそうですが、戦争を知らない世代なんだけれど、作品を通して当時のことを体感して、悲しい思いとか、こんなことがあったとある種、疑似体験であるけど体験する。そのときにあの子たちが今までに感じたことのない気持ちになったりとか、戦争を考えたり、作品を通してあの子たちの思いって言うのが、画面を通してすごく伝わってくるんじゃないかな。共演してみて、僕らもその澄んだ眼に刺激を受けて、感動しました。作品のエネルギーとして画面から伝わってくると思います」

敗戦後の日本の未来のために、“命令”“宝物”“命”……さまざまな大事な物を“守る”ことがテーマの本作。今、獅童が守りたいものは、何だろうか?

「地震によって、生身の人間のふれあいが見直されているけれど、特に役者は、それを日頃から感じていないといけないと思う。世の中がデジタル化して便利になって、人と触れ合わなくても、いろんな情報が得られる時代だからこそ、人と人との出会いや、人間が本来持っている生身のアナログな部分を、演劇を通して、歌舞伎を通して、映画を通して伝えていかなきゃいけないし、守らなきゃいけないと思っています」。伝統芸能から現代劇まで、今や日本の演劇界をけん引する立場の獅童。その自覚を新たに誓った。

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