日輪の遺産 : インタビュー
堺雅人、初の軍人役で祖国復興への思いを熱演
作家・浅田次郎の初期作品を映画化した「日輪の遺産」(佐々部清監督)がこのほど公開される。昭和20年、敗戦を悟った軍上層部は、陸軍が奪取した時価900億円ものマッカーサーの財宝を、戦後の日本復興のために隠匿(いんとく)するよう、3人の軍人に命じる。堺雅人演じる陸軍少佐・真柴司郎らと、共に財宝を守り抜く勤労動員の少女20人との交流、祖国復興への思いを描いた人間ドラマだ。本作で初の軍人役を演じる堺が、作品について語った。(取材・文:編集部、写真:本城典子)
「鉄道員(ぽっぽや)」「地下鉄(メトロ)に乗って」「蒼穹の昴」など、数々のべストセラーを世に送り出している浅田が1993年に発表した「日輪の遺産」は、売り上げ部数50万部を誇る人気作。浅田自身も本作の映像化を熱望し続けてきた。台本とともに原作を読んだ堺は、物語の勢いに心を動かされた。
「浅田さんご自身も“若書き”と仰る、初期の作品だとうかがっているんですけれど、熱に浮かされたように、何かにつき動かされるように書き上げたような疾走感、勢いや熱みたいなものは大事にもらわなければいけないなと思いました」
堺が演じる、近衛第一師団情報参謀に属する真柴は、職業軍人として司令部からの命令を忠実に遂行するという役柄。財宝を守るため、ともに行動する東京帝大卒のエリート主計中尉・小泉重雄を福士誠治、真柴と小泉の護衛役を務める歴戦の兵(つわもの)曹長・望月庄造を中村獅童、女子中学生20人を引率する、平和主義の教師・野口孝吉をユースケ・サンタマリアが演じる。
初の軍人役を務めるにあたり、軍刀が体になじむよう常に身に付け、居合の道場にも通った。しかし、「よくある軍人像を形だけ真似よう、こうやったら軍人ぽく見えるだろうか、というような試行錯誤はまったくしなかった」と話す。
「真柴は、他の人たちに比べて鮮明なカラーが出ていないんです。いろんな人たちの間でうごめく役、それぞれの影響を受けながら戸惑ったりする役。その辺の歯切れの悪さは演じがいがあったかもしれません。他の登場人物と比べて、分かりやすい決断をしないところが面白い」と役どころを分析する。堺自身との共通点を問うと「共通点はありませんが、かくありたいなと思いました。判断を保留する強さ。分かりやすい回答に逃げない、それは非常に成熟した大人の魅力の様な気がします」と、真柴の美点を挙げる。
重いテーマの作品ゆえ、共演者とは他愛もない話をして現場での精神のバランスを取っていたという。「4人でそれぞれの役をそれぞれシャッフルしても面白いよねっていう話もしましたね」。
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