「殺戮すらエンターテイメントの要素として楽しむ映画」キック・アス とみいじょんさんの映画レビュー(感想・評価)
殺戮すらエンターテイメントの要素として楽しむ映画
制作を持ち掛けたところからことごとく改変を求められたけれど、応じずに自主製作で作った映画。
なので、『キングスマン』に比べるとポップなコーティング度、スタイリッシュ度は落ちているが、それでも、監督がやりたいことは突き抜けている。登場人物たちの造形はあえて手作り感を込めたオタク度を極めているのか?あのセンス…。ギャグをねらっているとしか思えない。映像はスタイリッシュなのに。
それが、アメコミや日本のコミックで育った世代には妙にはまって…。
キレッキレのアクション。
しかも、主人公の高校生でもなく、大人である父でもなく、11歳の少女がはじけ飛ぶ。
スタントマンではなく、7か月の訓練を経て、ほぼご自身で行っていると聞く。クロエさんの出世作となったが、これだけのものを見せられれば納得。「ブレイクスルー演技賞」や「ライジングスター賞」を受賞されているが、さもありなん。
新世代のスター誕生と拍手喝采、推し活をしたいところなのだが…。
残酷!!
『キングスマン』のレビューでも同じ言葉を書いたように、 理性・人間性を閉じちゃえば楽しめるのだが。
しかも『キックアス』では
ヒットガールとビッグダディは私怨での殺戮を繰り返す。
ヒットガールとビッグダディは娘を復讐の道具として育てる毒親。その毒親に洗脳され切っている娘。
笑いながら、超絶残酷な死刑執行を行うヒットガールとビッグダディ。
ヒットガールとビッグダディは、犯罪組織壊滅を希求しているはずなのだが、どちらが悪の組織か混乱してくる。ギャング同士の抗争と思おうとしても、ヒットガールとビッグダディの方が残酷で…。尤も、頭の使い方・策略は悪の組織の方が何枚も上手なのだが…。
それでも、ヒットガールと絡む主人公のキックアスが一応「正義とは」とか悩んでおり、人を助けようともがいているのが、一種の”良心”には見え、輻輳的な物語になっている。キックアスの中ニ病的なところと現実の対比も面白い。とはいえ、悩み度は浅いし、何よりヒットガールとビッグダディの印象が強すぎて、やじろべえの重りにすらならない。監督のほんの言い訳の贖罪のために配されているようにすら見える。
映画は微妙・絶妙なバランスの上に成り立っている。
バイオレンス映画なのか、コメディなのかも微妙。
結構えぐい場面も出てくる。電子レンジ場面やスクラップ場面とか…。でもそれがコメディタッチで描かれるので、理性では笑いたくない場面で失笑してしまうとか。じゃあ全編コメディなのかというとそうでもない。そんな匙加減も微妙・絶妙。すごいバランス感覚。
現代の風刺画になっているところもニクイ。それでいて現実にもちゃんと根ざしている。キックアスとレッドスミスの友情も切ない。このオチも、ある意味教訓? お気楽映画だけではない。
いろいろなメッセージを受け取れるのに、馬鹿馬鹿しくて笑ってしまい、スカッともして、泣きの要素もあり、残酷さを笑っている自分自身に戦慄する。
いろいろな作品へのオマージュも盛り込まれているそうで、その辺が判る人にはたまらないらしい。わからない私にも、わからないなりに楽しめたけど。
ごった煮なのにスタイリッシュ。すごいバランス感覚。
職人芸。
個人的にはヒットガールのアクションシーンとBGMにスタンディングオペレーションを贈りたい。
けれど、無抵抗の人間をスクラップで殺す場面を笑って見ている、電子レンジ場面のコメディが受け入れられない。
万人にはお勧めできない。
きちんと自分で判断できる軸を持った大人が、ちょっと理性緩ませて馬鹿馬鹿しさを楽しむ大人の映画かなと思います。
とはいえ後味悪い。
やぱりR15指定。