「大きく、深呼吸」君に届け ダックス奮闘{ふんとう}さんの映画レビュー(感想・評価)
大きく、深呼吸
椎名軽穂原作の人気少女漫画を、「虹の女神」「ニライカナイからの手紙」などで柔らかい人間の繋がりを丁寧に描く俊英、熊澤尚人監督が映画化。
原作の持つ瑞々しい世界観を踏襲しつつ、より現実味を増した物語作りで観客の共感を呼ぶことに成功している。熊澤監督曰く「自分は二人の間にある関係の変化に興味があるのであり、学園ものは人数が多くなってしまう」と困惑を示したというが、舞台となる学校のクラス生徒全員に名前を付け、清潔な空気感を描き出した。そこに生まれる柔らかい空間は非常に気持ち良い。
主演、多部未華子はこれまでの作品にあって、徹底的に役柄を作り込み、堅実に演技をこなす女優であり、熊澤作品の柔らかさには似合わないとみる向きがあったが、そこは演技派女優。バランスを考え、見事に少女漫画特有の曖昧さに溶け込んでいる。蒼井優、上野樹里といった曲者女優達を的確に料理してきた監督の手腕との、相性の良さも活きている。
三浦、蓮仏、桐谷といった若手俳優たちも、自分の役割をきっちりと理解した上で表現できている。出すぎず、下がりすぎず。ARATAが久しぶりに演じた爽やかを地で行く教師、格好良さだけに収まらない可愛い味わいもまた、この作品の収穫であろう。
ぎすぎすした学校環境がクローズアップされがちな現代社会にあって、限りなく生々しくも温かい人間の関わりを丁寧に描くことにこだわった本作。鑑賞後、広がる青空に向かって大きく深呼吸したくなる、幸せに満ちた物語を是非とも大切な人と、手放したくない人と一緒に楽しんでほしいと思う。
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