「主演のふたりの懸命さi脱帽。素晴らしい山岳映画です。」岳 ガク 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)
主演のふたりの懸命さi脱帽。素晴らしい山岳映画です。
雄大な北アルプスの山々をバックに、主演のふたりの懸命さが画面から伝わってきました。何しろ小栗旬は高所恐怖症なのに山岳シーンに吹替えなしで出突っ張りです。標高3,190mの穂高岳にもちゃんと登頂しているではありませんか。しかも、クレパスの深い穴に向かって飛び降りるなんてシーンにも挑戦しています。とても高所恐怖症を微塵にも感じさせません。それどころか、斜面を飄々と登っていく小栗は、全身から山が好きだという山バカに成りきっており、原作の主役三歩を超える三歩らしいキャラを作り上げたといって過言ではありません。
いくら原作に惚れ込んで、出演を快諾したとはいえ、山バカに成りきるためには、スタッフにも内緒で、長期のトレーニングを積んだそうです。さらにクランクイン直前の八ヶ岳冬山登山訓練に長澤と共に参加した小栗は、本当に遭難一歩寸前の状態を経験しており、その時の体験が本作のリアルティを押し上げることにつながりました。
映像面でも、今までの山岳映画らない映像を撮ろうという意気込みがそこかしこに感じられます。CG漬けの最近の映画に馴染みすぎている映画ファンにとって、全てガチンコで山に立ち向かっている本作を見れば、映画の原点を見る思いに浸れることでしょう。
ストーリーは、山岳救助ボランティアである三歩の活躍を、原作のエピソードから巧みに一本の物語に紡ぎ上げています。全編のエピソードをつなぐ伏線として、長野県警山岳救助隊に新人として配属された久美の成長でした。登場当時の久美は、場違いなほどに未熟で自信をなくしていました。そんな彼女が三歩と出会って変わっていく様は、まるで『海猿』の山版といっても良い内容です。但し、久美は単に山が好きだからという軽いノリで山岳救助隊を志望したのではなかったのです。それはストーリーが展開していくなかで、少しずつ明かにされていきました。
三歩の山バカぶりは、冒頭から発揮。無謀な登山計画の果てに、遭難した若者を救助したときも満面の笑顔で「ありがとう。生きてた君に感動した。また、山においでよ。」と言ってのけるのです。
住居を持たず、毎日を殆ど山で暮らし、時々降りてきて、山荘でアルバイトをして生活をつないでいました。その山荘での三歩の好物は、山盛りのナポリタン。うまそうに頬張る姿に、ついついつられて山盛りのナポリタンをその晩作ってしまいました(^^ゞ
実はこのナポリタンは、三歩にとって単なる好物だけでなく、、忘れがたい思い出が重なっていたのでした。無二の親友が遭難して死んだとき、遺体を背負って2日間も歩き続けた体力を養ったのが、出かけるときに腹に収めた山盛りのナポリタンだったのです。
「山においでよ。」と屈託なく笑う三歩は、単なる山バカでなく、ナポリタンを味わう度に亡くなった友への哀しみを思い出す、そんな過去を背負って生きる人物でした。
だから久美に対して、山の厳しさは徹底的に教え込もうとします。それでもおおらかに前向きに、死の危機に面しても、遭難者を気遣う心の余裕を見せるのは、それだけの修羅場を超えているからでしょう。
ラストの多重遭難のシーンでは、さしもの三歩も絶体絶命のピンチに陥ります。それでも、遭難者に『生きろ!』と呼びかける三歩の姿には、優しさと命の尊さを感じ、感動しました。
久美が背負ってきた過去からのトラウマを乗り越えるところも感動的。最初は、三歩の装備のなかにもコンドーム(水筒の代わりに使う)があるのを見て、思わず誤解し、三歩に警戒してしまうほど登山の素人だったのに、必至で特訓して、多重遭難の時は、ヘリコプターからの命綱を切ってまで、残された遭難者の向かうおうとします。
その必至さは、ほぼ登山が初めてという演じる長澤まさみの必至さがそのまま現れていました。ホワイトアウトするくらいの吹雪のシーンだけに、久美の決断には感動しました。命を投げ出してまで救助に向かおうとする久美の父親は、実は殉職した山岳救助隊長だったという過去が重なっていきます。救助に明け暮れる父親に、子供心に寂しい思いで育ち、父親を理解したいという一念で、自らも山岳救助隊員に志願した、久美の切ない思いが明かされるシーンは、きっと涙を誘われることでしょう。
多重遭難時に二重遭難をさけるため、救助に向かおうとする部下を殴ってでも制止しようとした山岳救助隊の野田隊長を演じた佐々木蔵之介の侠気ある隊長ぶりにも好演だったと思います。
この壮大な山岳ロマンを味わうには、DVDでは画面が小さすぎます。なるべく大きなスクリーンを持つ劇場をお勧めします。