「作り手は、本気である」岳 ガク ダックス奮闘{ふんとう}さんの映画レビュー(感想・評価)
作り手は、本気である
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片山修監督が、小栗旬、長澤まさみを主演に迎えて描く、人間ドラマ。
小栗、長澤という二大スターを起用した娯楽映画にしては、非常に骨太の作りとなっている。その姿勢が特に強く打ち出されているのは、息絶えた遺体を、崖から投げ出す一幕。
観客の涙を誘いたいのならば、スローモーションや叫びを持ち込んでくるものだが、本作はそうはいかない。「ごめんね」の一言を加えた後は、まるで物を投げるかの如くポーンと落とす。音も無く、遺体は落下していく。これは、実は結構珍しい。ここで、観客は確信する。
「ああ・・・本気だな」
日本アルプスに実際に登山し、撮影に成功した壮大な雪山の風景。ここに観客は安心の一息を付くことが出来るが、物語を貫くのは仰々しい音楽を極力抑え込み、リアリティにこだわる堅実な姿勢。佐々木蔵之介、渡部篤郎といった確かな演技力をもつ役者陣をメインに置いたのも、納得の人選である。
熱く、大らかな優しさで人間を包み込む魅力を打ち出す小栗の確かな役作り。柔らかな中に、同世代の多くの女優が持ち得ない凛とした気高さ、張りのある芯の強さを本作でもしっかりと発揮する長澤の味わい。場数を踏んでしっかりと、自らの持ち味を作ってきた主演を的確に使い、その場限りの感動のみがある子供だましでは終わらせたくない、作り手の覚悟と意欲が観客を惹きつける。
こういった人間描写に溢れ、物語を無駄なく、重厚に仕上げる作品が高い評価を集めているのは、心から嬉しい。日本映画界の未来を暗示するように、物語に描かれる空はスコーンと、眩しく、青々と輝いている。
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